けいおん!、ハルヒ、ユーフォニアム……京都アニメーションの“音”へのこだわり
物語と共に演奏の技量が増していく演出の妙
そして“音楽家”京アニの実力が極まったのが2015年のテレビアニメ『響け!ユーフォニアム』だろう。ここで京アニが試みた音楽表現の中でも白眉なのが、“ドヘタクソ”なプレイ。物語はヒロインである黄前久美子が舞台たる北宇治高校の吹奏楽部に入部し、優れた指導者の指導と部員のたゆまぬ努力のもと成長する様子を、ある種異様なまでに丁寧に追いかけるものではあり、その最初期、つまり久美子が高校入学時に新入生歓迎演奏をしている吹奏楽部の様子を観る映像がインサートされるのだが、この演奏が、驚くほどヘタクソなのである。当然のことながら、アニメーションの音楽はその道のプロフェッショナル、腕っこきのプレイヤーが演奏している。にもかかわらず、アニメ第1話、久美子入部前の吹奏楽部はぶっちゃけど素人みたいな演奏しかしていない。つまり、京アニの演出家は名うてのプレイヤー陣に「物語上必要なのでヘタクソにプレイしてください」とオーダーし、プレイヤー陣も見事その要望に応えて、ド素人みたいなプレイをしてみせているわけだ。
これは『けいおん!』最初期でも見られる演出だ。メインヒロイン・平沢唯はギブソンのギター・レスポールという超名品をひょんなことから手にしつつも、どうしようもない音しか鳴らせないシークエンスが挿入されている。しかし唯は、その数話後にはなんのエクスキューズもなく、あっさりとテクニカルなプレイを見せつけている。その点『響け!ユーフォニアム』ではドヘタクソな吹奏楽部が久美子の入部と瀧昇の顧問就任によって、徐々に部の演奏がレベルアップし、最終的には吹奏楽部のコンクールの全国大会に進出するまでを描いている。要は腕っこきのミュージシャン陣が、あえてだんだん上手くなる吹奏楽部的なプレイを再現してみせているわけだ。ミュージシャン陣はもちろん、その演出をつけた京アニスタッフも評価されるべきだろう。そしてこの意匠は2018年公開のスピンオフ映画『リズと青い鳥』にも引き継がれている。こちらは北宇治高校吹奏楽部所属のでオーボエ担当・鎧塚みぞれとフルート担当・傘木希美が合奏を完成させる姿を追う物語だが、その友情を育む様子とそれと並行するようにオーボエ&フルートのアンサンブルの完成度が上がっていくという巧みな演出を施している。
新作アニメ『ツルネ -風舞高校弓道部-』の「弦音」の演出への期待
10月21日24時10分より、京アニの新作アニメ『ツルネ -風舞高校弓道部-』がNHK総合で放送される。ここまで音楽を中心とした作品について語ってきたが、本作は音楽劇ではない。弓道に打ち込む男の子たちの横顔を追ったライトノベル・ヤングアダルト小説が原作ではあるが、そこは京アニブランド。「弦音(つるね)」とは、矢が弓を跳ねる瞬間の音を指す言葉。その音が鳴る原理は弦楽器と変わらないので、弓を射る人により音もそれぞれ変わるという。姿勢、引く強さ、角度、さまざまな条件により音は弾くたびに変わる。そして、それは射る者の心の機微にも左右されるかもしれない。『ツルネ -風舞高校弓道部-』は、その音使いに耳を傾けてもきっと面白いはずだ。本作のOPを務めるのはラックライフの「Naru」。胸の深くまで矢を放ってくる様な、メッセージ性の強いロックチューンは、5人の主要キャラの心の葛藤をそのまま表現したかのようだ。
対してEDのChouChoの「オレンジ色」は、青春の日々を振り返るような、ノスタルジーに満ちたバラードになっている。笑った日も泣いた日も、夕日のオレンジ色が帰り道を染めていく。どんな人にもあるオレンジ色の思い出の風景を、自身も弓道部だったというChouchoが歌うことで、より『ツルネ -風舞高校弓道部-』の世界を深めてくれそうだ。
(文=成松哲)