カフェ・カンパニー楠本修二郎×InterFM897奈須裕之×KKBOX山本雅美が語り合う、食とラジオと音楽ストリーミングの未来

『897 Selectors』に学ぶ、食とラジオと音楽配信の親和性

 毎週日曜日の20:00~21:00にInterFM897でオンエア中のラジオ番組『KKBOX presents 897 Selectors』(以下、『897 Selectors』)は、一夜限りのゲストが登場し、その人の音楽のバックボーンや、100年後にも受け継がれていきたい音楽を紹介するというものだ。同番組は、ゲストがセレクションし、放送した楽曲をプレイリスト化、定額制音楽サービスKKBOXでも視聴できるという、ラジオと音楽ストリーミングサービスの新たな関係値を提示している。今回リアルサウンドでは、カフェ・カンパニーの代表取締役社長、楠本修二郎氏をゲストに迎えた2月21日放送回の収録に潜入し、同番組のプロデューサーであるInterFM897の奈須裕之氏と、KKBOXの山本雅美氏による対談を実施。楠本氏と音楽の接点や、食とラジオと音楽ストリーミングサービスの親和性、それぞれが取り組んでいる“コミュニティ作り”や、国内外へのアプローチ放送など、話は多岐に渡って盛り上がった。(編集部)

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『897 Selectors』2月21日放送回の収録風景。左が楠本修二郎氏。

「ラジオから掘り下げていくためのツールとして、サブスクリプションサービスが面白いと感じる」(奈須)

――今回は楠本さんに初めて音楽メディアに出ていただくというところで、まずは楠本さんと音楽の接点を伺いたいと思います。

楠本修二郎(以下、楠本):原風景としては、福岡のわりと都会側に生まれたのですが、オヤジがすごくロマンチストな人で、いきなり「海際に家を建てる」と言い出したんです。西戸崎という、いまは「海の中道公園」になっているところに当時は米軍基地があったのですが、その横に家を建てて(笑)。だから家では「FEN」(極東放送網)を聴いていて、洋楽が自然と入ってくる環境でした。やはり、“アメリカ”が真横にあったことが大きいと思うんですよ。

――比喩じゃなく、風景としてアメリカが真横にあったわけですね。

山本雅美(以下、山本):僕もお父さんの気持ちがわかります。だから片岡義男の小説を抱えて横須賀に行きたかったですし(笑)。

――上京されてからは、六本木周辺のクラブやバーで働いていたと伺いました。ここでも音楽に触れていらっしゃいますね。

楠本:働かされると思っていなかったんですけどね(笑)。当時の六本木では、ブルースやカントリーが掛かるようなところで働いていて、ブルース・スプリングスティーンみたいなGパンにバンダナという渋カジ第一世代というような恰好をしていました。当時の六本木はパーティー野郎のような人たちと2派に分かれていて。その人たちはDCブランドを着て、肩パットを入れて、マハラジャに行くようなスタイルでしたね。

――山本さんは、楠本さんの仕事に対するスタイルや仕事術を参考にされているとか。

山本:もともとカフェ・カンパニーが経営しているお店自体のファンだったこともあるのですが、会社のそばに『WIRED CAFÉ』のロースターを200円で入れてくれる店ができまして。コーヒーを淹れている間に店主の和田(剛)さんと話していると、一日のせわしないビジネスタイムの中で、ふと「なんで、こんなに今までいろいろとバタバタしていたんだろう」と思えるんですよね。話しているなかで仕事のアイディアが浮かんだりもして。

楠本:うちのバカヤローがお世話になってます(笑)。

山本:いえいえ(笑)。自分はずっとレコード会社にいたので、それまでは目の前のアーティストには一所懸命でも、それ以外のたくさんの曲をどこか置いてけぼりにしちゃっていたんですね。でも、ストリーミングサービスに携わって、ジャンルも時代もボーダレスに跨げることが当たり前になりました。和田さんと話していて、そんな環境においても、何かをきっかけに音を聴いてもらって、人と会話して、その音楽が何かを伝えていくことが、より大事になっていると感じたんです。それは楠本さんの選曲にも表れていたように思えます。

――その「何かをきっかけに音を聴いてもらって、人と会話して、その音楽が何かを伝えていく」ということが、『897Selectors』の根幹にあるのではないかと収録を見ていて感じました。あらためて、この番組が立ち上がった経緯を教えてください。

山本:『KKBOX』は、約1500万曲が場所を問わずどこでも聴けるストリーミングサービスなんですが、ここ数年で他のサービスも日本で提供されるようになってきて。それらのサービスには、プレイリストを作る「プレイリスター」という方がいるのですが、無尽蔵なライブラリのなかからオススメの楽曲を選んで提案するということ自体は素晴らしいけれどなにか物足りない。和田さんのように肉声で紹介できたら、リスナーに深く刻まれるんじゃないかと考えたんです。そうしたらラジオという考えに行き着き、そこが『KKBOX』の接客の場になるんじゃないかと。そこで、InterFM897の奈須さんに相談したところから話が進んで、「番組をやろう!」ということになりました。

奈須裕之(以下、奈須):ラジオ局というのは、スポンサーがないと民放局として成り立ちません。けれど、なかなか音楽に対して理解があって、スポンサーに加わってくれる会社を募るのは難しい時代になってきました。『KKBOX』はそんななかで、音楽という部分でちゃんと繋がって、「色々な音楽を色々な人に聴かせたい」という同じ理想をともに追いかけてくれる。僕の中では、もう一緒のチームのような感じがしていて。

山本:ですよね。やっていることも番組というより、プロジェクトに近い形だと思います。

奈須:毎回現場に来てくれて、「このセレクターさんはいいですね」「その企画はまだやらなくても大丈夫」と協議するのも、プロジェクトなら自然ですよね。そこがいちばんいい関係値だなあと、ありがたく思っています。

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奈須裕之氏。
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――回を重ねるごとに、誰にセレクターとして出演してもらうかという感覚も共有できてきましたか?

山本:もともとは僕たちの「生き方が素敵な人の選曲が聴いてみたいね」という話から生まれていますから、その価値観をすり合わせていくだけですね。

奈須:あと、放送してみて、その反響を見るのが楽しいですね。放送前に反響のある人、放送中や放送後の反響が大きい人、それぞれ違っていて、こちらとしても再発見できることが多かったです。

山本:先日、著述家の湯山玲子さんに登場していただいた回で、彼女は父親である湯山昭さんが手掛けた合唱曲、「四国ばやし」を紹介してくれたんです。見守るこちらとしても、合唱曲を選ぶのは新鮮であり、音楽の再発見でした。しかし『KKBOX』にはその曲が配信されていなかったので、すぐにレコード会社に連絡し、オンエアに合わせて配信を始めてもらいました。「なぜこの曲を?」と不思議に思われたかもしれませんが、これはセレクターさんがいないと起こりえなかった出来事なので、これからもゲストセレクターの選曲をきっかけにして、楽曲が増え、少しでも聴いてもらえる機会が作れればいいなと思いますね。だから、各レコード会社のデジタル担当者さんには、ぜひ協力いただきたいところです(笑)。

――ラジオとストリーミングサービスは、どちらも“時間を消費して聴き込むコンテンツ”だと考えることもできますが、お二方は互いが競合するコンテンツだと感じたことはありましたか?

奈須:ずっとラジオの現場にかかわっている身として、とくにそういうことを感じたりはしないですね。だって、僕らでもずっとラジオを聴いているわけではないですから(笑)。だから、音楽を知って新しい扉を開けるものとして、ラジオは非常にいい媒体であり、そこからどんどん掘り下げていくためのツールとして、サブスクリプションサービスが面白いと感じるんです。『897Selectors』もまさにそういう形になっていて。あの1時間の番組の中でオンエアできなかった楽曲が、放送後に『KKBOX』で配信されるプレイリストには入っているんです。

山本:そこで食い合わず、リスナーがサービスを横断して、より良い音楽を知ってくれることが大事なんですよね。

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