栗原裕一郎が綴る、シンガーソングライターmeg rockの魅力
ポップとロックを統べる、meg rockの甘く滑らかな声 O-Crestワンマンライブレポ
2015年はメロキュア・イヤー
「star」が終わり、MCを挟んで二度目の“おむすびタイム”。間を繋いだのは、ドラムのかどしゅんたろう。舌でウェーブをやるとか顔芸を披露していたようだが、最後列にいたためまったく見えず。
おむすびを食べ終えたmeg rockの、オープニングテーマ(早見沙織「オレンジミント」)とエンディングテーマ(ClariS「border」)の2曲の作詞をしたアニメ『憑物語』が大晦日に放映されるというアナウンスのあと、2014年の提供曲を主とした「セルフカバーメドレー」へ。
「ideal white」(綾野ましろ/アニメ『Fate/stay night』OPテーマ)→「distance」(流田Project)→「monochrome」(Dancing Dolls/アニメ『ソウルイーターノット』OPテーマ)→「檸檬色」(でんぱ組.inc)→「恋の記憶」(中川翔子)→「the last day of my adolescence」(沢城みゆき/アニメ『花物語』OPテーマ)→「azurite」(petit milady/アニメ『とある飛空士への恋歌』OPテーマ)→「ambiguous」(GARNiDELiA/アニメ『キルラキル』OPテーマ)
「monochrome」は再会のきっかけになった曲だけにちょっと思い入れがあり、セルフカバーを聴いてみたいとかねがね考えてもいたので感慨もひとしお、鳥肌が立った。ぜひ音源をリリースしてほしい。
MCからここでまた“おむすびタイム”へ。よく食う。繋ぎに引き出されたのはギターの川口圭太。そこへもう一人のギター山本陽介が絡むなか、食べ終えたmeg rockから「直接私の口からお伝えしたかった」と重大発表が。
サントラなどあちこちに散らばってしまっているメロキュアの音源を全部集めたアルバムを2015年夏頃にリリースする企画が進行中だというのだ。
「初めてメロキュアを聴くという人も「メロディック・ハード・キュア」しちゃうような濃縮した1枚にしたい」と宣言して会場のテンションを一気に上げ、恒例の「メロキュアコーナー」に。
岡崎律子が亡くなったあと、meg rockは「一生メロキュアしていく」と決意表明をし、その言葉どおり歌い続けているのだ。今回選ばれたのは「1st Priority」と「Agapē」。「Agapē」は岡崎作詞作曲の楽曲で、とりわけ深く思い入れているファンの多い歌なのだが、嬉しい報告があったためか、さほどしんみりした雰囲気にはならず。しかし拍手は熱く長く続いた。
なかなか時間が取れず、心の準備も遅くなってしまいがちで、「自分の音楽」を見失いそうになったこともあったけれど、岡崎の楽曲をはじめとする愛するミュージシャンたちの音楽が迷いから連れ戻してくれた。いつの日か自分の音楽もそういう存在になれたら嬉しい。
自身の活動に対する葛藤と希望についてそう話したあと、そんな気持ちを込めて書いたという、このライブの数日前にiTunesで配信されたばかりの新曲「heart」へ。これもiTunes向けにマスタリングされている点では先の「star」と同様なのだが、より進んだ「Mastered for iTunes」(参考:https://www.apple.com/jp/itunes/mastered-for-itunes/)というハイレゾに近い方式が採用されている。
途中、これも恒例らしい、オーディエンスに参加を呼びかけて即席で「meg rock合唱団」を結成。フロアの左右を、チームドキドキとチームハートに分けてコーラスをうながす。高音パートと低音パートの分担で、ステージに導かれてそれぞれひとしきり練習、合わさるとハモるという狙いだ。なかなか難易度が高い。「やみくもにやってみましょう!」と「やみくもに!」を連発するmeg rock。
合唱で暖まったフロアを連れてラストスパート。1stシングルc/wの「NNN (ノリにノっているノゥミソ)」から、最新マイクロアルバム『slight fever』に収録の「play loud」へ。ジャンプ!と煽るなど再びハードさを高めていき、シングル中もっともビートの利いた曲である5th「笑顔の理由」でフロアの盛り上がりを頂点へと導いてラストを締め括った。
アンコールは、今期グッズの、タータンの星を胸にあしらったラグランシャツに着替えて登場。ゲーム仕立てのメンバー紹介、サイン入りドラムスティックの抽選会、フロアとの記念撮影など、ひとしきりまったりとしたコミュニケーションの時間を過ごしたあと、いよいよ本当のラストスパートに。
演奏されたのは、ミニアルバム『ラブボ』から「この左手は君のもの」、それから「slight fever」。最前列のお客さんたちはハイタッチの恩恵にあずかっていた。
「2015年もよロックしくお願いします!」という挨拶のあとメグロッカーに“ハートマークと投げキッス”をしてmeg rockはステージ袖に姿を消し、2014年の年末ライブは終了した。
すべてはひとつの直線上に
ライブを初めて見て思ったのは、繰り返しになるけれど、CDでの印象よりもはるかにロックしているということだった。
思い出してみれば、g.e.m.は、コンセプトとしてUKロックを押し出したプロジェクトだった。あの時点で見込まれていたのは、当時はロリータボイスとも評された日向めぐみの声とサウンドのある種の拮抗感、ミスマッチ感だったといえると思うが、メロキュアを経たことで、meg rockは、ポップとロックの関係を拮抗から一気に反転して、一段階高いレベルの調和として具現するに至ったということなのだろう。
すべてはひとつの直線上に並んでいるのだ。
その調和を統べているのは、矛盾するようだが、やはり依然として、meg rockのあのどこまでも甘く滑らかな唯一無二の声なのである。
余談になるけれど、このライブの翌日に、本サイトでハロプロ関連記事を書いているピロスエ氏主催の「アイドル楽曲大賞」というイベントへ行った。やはり本サイトで連載を持つ地下アイドルの姫乃たまさんも遊びに来ていて、「昨日meg rockのライブに行ったんだけどさ」と話したら、「えー、いいなあ! 昨日は行けなかったけど、私もずっとmeg rockのライブに通ってるんですよ!」と返ってきた。
姫乃たまとmeg rockの取り合わせが意外で詳しく聞くと、メロキュアはよく知らない模様。でもグミは、後追いだけれど知っているという。不思議な中抜けに、MCで口にされていた「meg rockのライブでメロキュアを初めて知ったというメグロッカーも増えてきて」という言葉を思い出す。
姫乃さんはアイドルになりたての頃アニソンイベントでDJをすることが多く、meg rockの名前はよく目にしていたのだが、決定的だったのは中川翔子の「空色デイズ」(07年)だったそうだ。アニメ『天元突破グレンラガン』のテーマソングだったmeg rock作詞のこの曲は、当時地下アイドルがこぞってカバーするアンセムになっていて、それでmeg rock自体に興味が湧きライブへ足を運ぶようになったということだった。
ライブ終了後、居残ってmeg rockさんに挨拶をした。実に14年を隔てての初対面で、変な表現になるけれど、ずっと昔に文通をしていたペンフレンドにようやく会えたような気分だった。目の当たりにした憧れのペンフレンドはとてもとてもチャーミングで、すっかり身に付けたはずの図々しさもどこかへ行ってしまい、年甲斐もなくドキドキしてあんまりうまくしゃべれなかった。
同行した本サイト編集部員M氏もライブを見て一発でヤラレてしまったようで「よかったですね!」とうわごとのように繰り返していたから、メロキュアのニューアルバムが出る暁にはきっと、『リアルサウンド』で大々的に特集が組まれることであろう。ねっ、編集長!?
*meg rockバンドメンバー
ベース:黒須克彦
ギター:川口圭太
ギター:山本陽介
ドラム:かどしゅんたろう
マニピュレーター:菅原拓
*セットリスト
01.Catch You Catch Me
02.レジへGO!
03.mighty roller coaster
04.apple crisp
05.incl.
06.wish
07.ベビーローテンション
08.clover
09.star
10.セルフカバーメドレー:ideal white(綾野ましろ)→distance(流田Project)→monochrome(Dancing Dolls)→檸檬色(でんぱ組.inc)→恋の記憶(中川翔子)→the last day of my adolescence(沢城みゆき)→azurite(petit milady)→ambiguous(GARNiDELiA)
11.1st Priority
12.Agapē
13.heart
14.NNN (ノリにノっているノゥミソ)
15.play loud
16.笑顔の理由
en01.この左手は君のもの
en02.slight fever
■栗原裕一郎
評論家。文芸、音楽、芸能、経済学あたりで文筆活動を行う。『〈盗作〉の文学史』で日本推理作家協会賞受賞。近著に『石原慎太郎を読んでみた』(豊崎由美氏との共著)。Twitter
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