『ブギウギ』“有名人”スズ子と戦後復興とのズレ 「東京ブギウギ」は美談で終わらない

『ブギウギ』東京ブギウギは美談ではない

 羽鳥善一(草彅剛)が作った新曲「東京ブギウギ」で“ブギの女王”として一躍スターとなったスズ子(趣里)。そんな中、『ブギウギ』(NHK総合)第92話では、芸能記者・鮫島(みのすけ)の取材を受けたことがきっかけでスズ子は大変なことに巻き込まれてしまう。

 「東京ブギウギ」のヒット以降、スズ子は休みなくステージに立ち続ける多忙な日々を送っていた。その間、愛子の子守をする山下(近藤芳正)も足腰を痛めかけている。一方、善一にはレコードや舞台、映画音楽などの作曲依頼が殺到。さすがの善一もオーバーワーク気味で、催促してくる仕事関係者に「信じてお待ちください」としか言えない状況だ。スズ子も新曲を依頼しているが、一向に音沙汰がない。

羽鳥家・仕事部屋にて。作曲の依頼が殺到し、大忙しの羽鳥善一(草彅剛)

 人気者ゆえの嬉しい悲鳴とも言えるが、スズ子と善一は良くも悪くも注目され過ぎている。実力が認められた分、それ以上のものを求める世間からの過度な期待を背負いながら仕事と向き合わなければならないし、その上、プライベートまで詮索されたり、ちょっとした発言が意図しない形で取り沙汰されてしまうことも……。有名人の苦悩というものは、今も昔も案外変わらないのかもしれない。

 スズ子は鮫島から取材で、“パンパンガール”について意見を求められる。パンパンガールとは、当時、有楽町界隈で主に在日米軍将兵を相手に街娼をしていた女性たちのことで、大きな社会問題となっていた。乳飲み子を抱えて奮闘するスズ子に、「同じ女性として彼女たちのことをどう思うか?」という鮫島の質問はそこまで突拍子もないものとは思えない。だが、スズ子の記事で「腹ボテ」「コブ付き」と猥雑な表現を使ってきた彼のことだ。記者としての純粋な社会的関心に基づく問いではなく、スズ子から世間の波紋を呼ぶような発言を引き出し、一儲けしてやろうという意図がそこにはあるのだろう。

左から、鮫島(みのすけ)、福来スズ子(趣里)

 スズ子は慎重にかつ正直に言葉を選び、「生きてなんぼや。生きるためにしていることを他人がとやかく言えまへん!」と答えるが、後日、彼女のもとに有楽町界隈を取り仕切っているというパンパンガールの親玉・おミネ(田中麗奈)が怒鳴り込んでくる。“ラクチョウのおミネ”と呼ばれる彼女には、スズ子の発言が自分たちを馬鹿にしていると感じられたよう。鮫島がどういう書き方をしたのかはわからないが、スズ子が彼女の反感を買ったのは「東京ブギウギ」が戦後復興を象徴する楽曲と言われていることも関係しているのではないだろうか。

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