『アクロス・ザ・スパイダーバース』がTV初放送! 世界を驚かせた革命的な映像とドラマ性
『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018年/第91回アカデミー賞長編アニメ映画賞受賞)は、アニメーションの革命児として長く記憶されるシリーズになるだろう。とりわけ3DCGアニメーションの歴史を語る上では、『スパイダーバース』以後と以前で分けられるほど、時代の転換点と言えるほどの重要作と言える。
90年代にピクサーが『トイ・ストーリー』(1995年)を発表して以来、CGアニメーションが主に追求してきたものは、現実の手触りを感じさせるフォトリアルな作風だった。そこに『スパイダーバース』はまるで異なるアプローチを提示し、『長ぐつをはいたネコと9つの命』(2022年)や『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』(2023年)など、ここ数年の米国アニメーションにも多大な影響を与えている。
そんな『スパイダーマン:スパイダーバース』と『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(2023年/第96回アカデミー賞長編アニメ映画賞ノミネート)が、WOWOWで2月11日に放送・配信される。アニメーション史においても重要作となるこのシリーズが広く目に触れることとなる。そこで、本稿では改めてこのシリーズの何がすごかったのかを、基本的な部分から検証して、魅力に迫りたい。
コミックを動かすという挑戦
近年、実写映画でもアメリカのアニメーション映画でも使用される3DCGという技術は、コンピュータ上にある3次元空間に、物理演算によって画像を生み出すものだ。そのため、基本的にはあらかじめ奥行きのある空間を持つことが手描きのアニメーションと異なる点で、カメラで撮影したような実写的でリアルな空間を生み出すことに長けている。
その特性を活かして、ピクサーをはじめとするアメリカのアニメーション会社は、フォトリアルな世界観を突き詰めてきたし、キャラクターの描写にかんしても、例えば、動物の毛並みなどがまるで本物のような質感になるように追求してきた。
しかし、『スパイダーバース』はまるで異なるアプローチを試みた。この映画の制作陣は、現実のような空間を目指すのではなく、アメリカン・コミックのような空間を創出し、コミック調の絵柄を動かすという選択をしたのだ。日本では『THE FIRST SLAM DUNK』(2022年)が原作者・井上雄彦監督のもと、マンガの絵柄をそのまま動かすという挑戦をして絶賛されたが、『スパイダーバース』はそれに先んじて成功させていたのだ。
そこには、紙のコミックならではの印刷風のドット的なテクスチャーが貼られることもあれば、文字で効果音が挿入されることもある。キャラクターデザインもアメコミ的な画風を活かし、手で塗ったようなムラのある色合いを敢えて作り、リアルな質感を求めるピクサーとは対照的に絵であることがことさらに強調されている。
その質問を生み出すためには、多くの努力と工夫を要した。本作は3DCG技術をベースに作成されたものではあるが、コミックのテクスチャーを再現するために、手描き作業で膨大な修正を施している。その意味で言えば、本作は3DCGと手描きアニメーションのハイブリッドによって実現した作品と言える。
こうした作風がフォトリアルに支配されたCGアニメーション界に風穴を開け新鮮な感動をもたらした上、原作ファンからも大きく支持されたのだ。