『ブギウギ』から紐解く戦争と喜劇の関係性 チャップリンや榎本健一が一歩を踏み出す力に

『ブギウギ』から読む「戦争と喜劇」

 この令和を生きる私たちは、これらのことを身をもって知ることはなかなかできない。歴史を振り返ってみても、それらは単なる事実でしかない。ならば、本当に「喜劇」は必要なのだろうか。

 ファティ・アキン監督の手がけた映画に『消えた声が、その名を呼ぶ』(2014年)というものがある。物語のはじまりの舞台は第一次世界大戦中のオスマン帝国・マルディン。妻や娘と引き離されて過酷な運命に遭った主人公のナザレット(ハール・ラヒム)が、“声”を失いながらも家族の元へと向かうさまを描いた作品だ。

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 同作には一本の(悲)喜劇映画が登場する。チャールズ・チャップリンによる『キッド』(1921年)だ。本作は、捨てられた子を拾った放浪者が、やがてその小さな子との特別な信頼関係を築いていくというもの。これを『消えた声が、その名を呼ぶ』の主人公・ナザレットは、流れ着いた先で観るのだ。そして笑い、泣き、劇中の登場人物たちと、家族と引き裂かれた自分自身とを重ねる。

 これは特別な状況かもしれない。喜劇王であるチャップリンにとって『キッド』は、ちょっと異色の作品でもある。しかしもしもナザレットが目にした映画が単なる親子の悲劇であったならば、彼のその後の動向は変わっていたかもしれないと思う。

 『キッド』が感動作なのは間違いない。けれども、同作がつねにコミカルなトーンで描かれていることが与える観客への影響は大きいはずだ。ナザレットは極限状態で笑うことができたからこそ、作品のテーマを受け取り、自身の行動に反映させられたはずなのだ。

 さて、いまの私たちの社会ではどうだろうか。もう思い切って言ってしまうが、やはり現実のほとんどが「悲劇」なのではないかと思う。“笑い”や“明るさ”が必要だ。そう、人々が気力を取り戻していくには、新しい一歩を踏み出すためには、「喜劇」が必要なのである。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK

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