『呪術廻戦』恵の父・伏黒甚爾が物語全体に発した存在感 知ると切ない“クズ”の背景

『呪術廻戦』伏黒甚爾が物語に発した存在感

 アニメで描かれた競艇場の食堂シーン。良い家の出なのに箸の割り方が雑だったり、食べ物を粗末にしたりする様子が彼のストリート感を強調させていた。しかしそれ以上に、人にぶつかってラーメンを台無しにしてしまっても、ほぼ無関心である様子の方が重要だったように思う。そんなふうになってしまうまでに(妻を)愛していた、ということだから。彼は夏油を倒したときに「その恵まれたオマエらが呪術も使えねえ俺みたいな猿に負けたってこと」と言った後、恵が自分の子供だったこと(名付けたこと)を思い出していた。それはつまり、「恵」の名前の意味が自分の持てなかった“恵”を息子の名に託した甚爾の“願い”だったのではないだろうか。そこまで強い気持ちで名付けた息子のこともわからなくなってしまうくらい、少しおかしくなってしまっているのも何だか悲しい。

 呪力のない自分を弱者として扱ってきた禪院家を含む呪術界を子供の頃から恨んでいた。だからこそ、その呪術界の頂点になった五条悟をねじ伏せたくなった。他人に対して何も感じない、麻痺状態だった甚爾の強い感情を思い起こさせた五条と、五条から“最強”を引き出した甚爾。両者にとって自分の核心を自覚する最終決戦は、激しさの中に神聖さのようなものもあって、美しいアニメオリジナル表現が印象的だった。

 本来なら天元と星漿体(天内理子)は同化するはずだった。そこに現れた“イレギュラー”の伏黒甚爾。彼は五条を進化させただけでなく、夏油傑に“傷”を負わせた。『劇場版 呪術廻戦 0』で夏油が乙骨に仕向けた呪霊を「烏合の衆」と読んでいたことも、非術師を「猿」と呼んでいたのも甚爾の言い草から影響を受けている。そして、甚爾と同じ“フィジカルギフテッド”の禪院真希。甚爾と同じような扱いを受ける彼女の持つ真の力や、いずれ向き合わなければいけない禪院家との問題など、甚爾は過去だけではなく現在や未来の物語にその存在感を発揮している。ただ滅茶苦茶に強いキャラクターというだけではなく人と人、人と呪霊の呪い合いを描く『呪術廻戦』という作品において彼は覚えておくべき男なのだ。

■放送情報
『呪術廻戦』第2期「懐玉・玉折」
MBS/TBS系にて、毎週木曜23:56~放送
「懐玉・玉折」編:7月6日(木)~8月3日(木)放送
閑話(前編) 8月10日(木)放送
閑話(後編) 8月17日(木)放送
「渋谷事変」編:8月31日(木)〜放送
キャスト:中村悠一、櫻井孝宏、遠藤綾、永瀬アンナ、子安武人
原作:『呪術廻戦』芥見下々(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)
監督:御所園翔太
シリーズ構成・脚本:瀬古浩司
キャラクターデザイン:平松禎史、小磯沙矢香
副監督:愛敬亮太
美術監督:東潤一
色彩設計:松島英子
CGIプロデューサー:淡輪雄介
3DCGディレクター:石川大輔(モンスターズエッグ)
撮影監督:伊藤哲平
編集:柳圭介
音楽:照井順政
音響監督:えびなやすのり
音響制作:dugout
制作:MAPPA
オープニングテーマ:キタニタツヤ「青のすみか」(Sony Music Labels)
エンディングテーマ:崎山蒼志「燈」(Sony Music Labels)
©芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会
公式サイト:https://jujutsukaisen.jp

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