小芝風花、『べらぼう』花の井役でさらなる飛躍へ 経験値が活かされた“伝説級”の佇まい

大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK総合)の放送開始から早くも6週が過ぎた。時代劇として一般的にイメージされやすい合戦どころか殺陣すらないものの、主人公・蔦屋重三郎(横浜流星)が江戸の世を駆け回る姿が、物語の序盤から熱い展開を生み出している。そしてこれに呼応するように、若手からベテランまでの俳優陣の力演が重なるのもたまらない。そのような者たちの中で、いまとくに気になるのが小芝風花の存在だ。やがて“伝説の花魁”となる人物を演じている俳優である。

本作は、吉原の貧しい庶民の子に生まれた蔦重こと蔦屋重三郎が、“江戸の出版王”へと成り上がっていく波乱万丈の人生を描くもの。さまざまな立場にある者たちの思惑が交錯する中、吉原を盛り上げることで厳しい環境下で生きる遊女たちの支えになろうと、まだ若い蔦重がいま走り回っているところだ。これから物語は回を重ねるごとにますます熱くなっていくのだろう。
そんな本作で小芝が演じているのは、吉原の老舗女郎屋である「松葉屋」を代表する花魁・花の井。幼少期に吉原に売られてきた彼女は、蔦重とともにこの地で育った幼なじみという間柄だ。蔦重にとっては何でも相談できる特別な存在で、やがてとある理由から長らく途絶えていた伝説の花魁の名跡である「瀬川」を継ぎ、その名を江戸中に轟かせることになるのだという。“伝説”となっている人物を演じるのは、それ相応のプレッシャーがあるのではないだろうか。実際、出演に際して公式のコメントで彼女は「私は大河ドラマに出演させていただくのも初めてなのですが、“伝説の遊女”ということで余計に緊張しております」(※)と述べている。しかしいざドラマがはじまってみると、小芝のパフォーマンスに変な気負いなどはまったく感じられない。

小芝が体現する花の井には独特の風格があり、華やかな佇まい、まるで舞のような所作、艶のある声……と、そのすべてが麗しい。そして、「松葉屋」のナンバーツーというだけあって、貫禄も感じさせる。吉原における彼女の存在の大きさが、画面越しでも伝わってくる。小芝が手にする台本には花の井というキャラクターの手がかりがちりばめられているのだろうが、一つひとつを拾い集めて技術で表現しようとしたところで、これほどの風格ある人物は立ち上がってこないだろう。やはりここには、小芝が俳優として踏んできた場数や経験値が反映されているといったところだろうか。はじめての大河ドラマという大舞台で、さらに飛躍しそうである。