『舞いあがれ!』舞は“自己犠牲”のヒロインではない 選択肢を提示する物語のメッセージ
『舞いあがれ!』(NHK総合)が年明けから衝撃の展開で“新章”に突入した。リーマンショックの影響が直撃して「IWAKURA」が倒産危機の真っ只中、父・浩太(高橋克典)が急逝。第15週「決断の時」では、母・めぐみ(永作博美)が社長を継ぐと決め、舞(福原遥)も本気で会社を支えることを決意した。誰の人生も、何が起こるか予測不可能だ。かくして舞とめぐみは、茨の道を歩んでいくことになる。
「ヒロインがパイロットを目指すドラマのはずなのに、話が違う」と思う視聴者も少なくないだろう。しかし筆者は、別稿「『舞いあがれ!』は“失われた20年”を取り戻す物語 不穏な年またぎを振り返る」で「ここからがこの作品が本当に描きたいこと」「“失われた20年”の中にあって登場人物たちがいかに生きていくのかを、このドラマは描こうとしている」と書いた。
『舞いあがれ!』は“失われた20年”を取り戻す物語 不穏な年またぎを振り返る
いまだかつて、こんなに不穏な「朝ドラの年またぎ」は見たことがない。2022年最後の『舞いあがれ!』(NHK総合)が去る2022年…
1994年、バブル崩壊の余波がまだ広がる頃に始まり、2008年のリーマンショックを経て、さらにその先まで続いていく本作。ドラマ前半までは「パイロットを志す舞の成長」というメインストーリーに対して、「失われた20年」はサイドストーリーであり、また「主調音」として常に横たわっていた。しかし後半に入って、まるで2本の線がクロスするように「失われた20年の物語」のほうがグッと手前に寄ってきた。そして主人公の舞が、渦中に飛び込んだというわけだ。
つまりは、舞が「当事者になった」ということだ。その“前フリ”として舞は、IWAKURA再建に関して「あなたは部外者だ」と繰り返し告げられていた。商品の検品・梱包の仕事から手伝いはじめた舞は、工場を売却するのが最善策だと考える兄の悠人(横山裕)に「お前がやってることはその場しのぎの親切やねん。どうせ手ぇ離すんやったら、はなから助けんほうがええ。無責任やぞ」ときっぱり言われる。事務員の山田(大浦千佳)からは「ひとりだけ救命胴衣を着てはんのに」と言い放たれた。また、亡くなる直前の浩太からは「舞はパイロット目指して頑張ったらええね」と告げられ、これが父との最後の対話となってしまった。
これまで、随所で舞の「甘さ」は描かれていた。航空学校で吉田(醍醐虎汰朗)をフェイルから救ったという“成功体験”から、水島(佐野弘樹)のときも同じように教官に直談判すればなんとかなると信じていたのだろう。しかし大河内教官(吉川晃司)から、パイロットになることの「本当の厳しさ」をこてんぱんに思い知らされる。
今はまだ、「IWAKURA再建」への入り口の扉に手をかけた状態だ。これから舞は本当の意味での「社会の厳しさ」を思い知ることになる。この状態から回復を目指すなら、浩太と同じやり方をなぞるだけでは到底太刀打ちできない。極限の苦難が待ち受けているだろう。ドラマにおいても、舞の人生においてもここが正念場であり、舞が人として大きく成長していくターニングポイントといえよう。