『舞いあがれ!』舞は“自己犠牲”のヒロインではない 選択肢を提示する物語のメッセージ

選択肢を提示し続ける『舞いあがれ!』

 ところで、旅客機のパイロットへの夢を“一時中断”して、IWAKURA再建に取り組む覚悟を決めた舞は、「親のために自分を犠牲に」したのだろうか。これには筆者は、はっきりと異を唱えたい。おそらく作り手側もそのようには作劇していないだろう。これまで一貫して舞は、目の前で困難に面している人や状況を「見過ごせない」人として描写されてきた。子ども時代の久留美(大野さき)がクラスメイトから中傷されたとき。なにわバードマン部員全員の夢である人力飛行機「スワン号」が頓挫しそうになったとき。航空学校で吉田や水島がフェイルしそうになったとき。それは「自己犠牲」ではなく、いつでも「自分がこれをどうしてもやりたい」という強い「衝動」からきている。

 舞はいつでも「思い立ったが吉日」の人だ。「スワン号」のパイロットになりたいと部長の鶴田(足立英)に志願したとき、まだ決定してもいないのに、すぐさまロードバイクを購入し、自主トレーニングを開始した。航空学校に行ってパイロットになりたいと願ったときも、両親に打ち明けるよりもずいぶん前から勉強を始めた。いつでも「行動」が先に出る。IWAKURA再建も、「お父ちゃんの夢のために」「お母ちゃんの思いのために」が「最大の理由」ではなく、「『私が』これに賭けてみたい」という直感的な願いが先に立ったのではないだろうか。今は目の前のことで手一杯だろうけれど、いずれはIWAKURAのねじで「飛行機を作りたい」という幼き日の「原点」に回帰していくことも考えられる。

 周囲が期待する「普通」が辛くて、自分だけの生き方を探す貴司(赤楚衛二)。会話で感情を表現するのが難しいけれど、他にいろんな“表現”のしかたを知っている朝陽(又野暁仁)。パイロットにこそ適さなかったが、今は家業のスーパーで生き生きと働いている水島。舞の周りの人物の姿を通じて、このドラマは「一点にこだわらずとも、さまざまな選択肢がある」「回り道をしてもいつか『この選択をしてよかった』と思える日がくる」というテーマを絶えず描こうとしている。

 舞も、いつかその境地に達するのかもしれない。舞のこれまでの道のりが、この困難を乗り越えるための「糧」となるだろう。幼き日の五島での体験と祖母・祥子(高畑淳子)の教え、みんなの力を合わせて「スワン号」を飛ばした経験、航空学校で叩き込まれた「自分ひとりでは決して飛べない。周りに頼っていい」「いかなる状況においても入念な準備と冷静な判断を忘れない」という教訓が役立つに違いない。

 今は、目の前にある「不測の事態」に対処するため「ゴーアラウンド」する時なのだろう。“一時中断”したとはいえ、パイロットの夢が完全に途絶えたわけではない。この先どうなるかはわからないけれど、舞の人生がどんな形で「舞いあが」っていくのかを見届けたい。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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