『舞いあがれ!』が描こうとする“夢のさらにその先” 悠人の説く“損切り”も重要な要素に

『舞いあがれ!』が描く“夢のさらにその先”

 舞(福原遥)が最後に見たお父ちゃん(浩太/高橋克典)の背中は、手塩にかけて大きくした工場の機械にそっと触れていった。“朝ドラ”ことNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の後半戦のはじまりである第14週「父の背中」では週の終わり、浩太がふいに亡くなった。

 リーマンショックによる経営難で胃潰瘍になり入院したもののすぐに復帰し工場の再建に張り切っていた矢先である。だがようやく光が見えたかと思った注文案件がなかったことになり、さすがの浩太も参ってしまう。それでもなお、守り続けてきた工場と共に働いてきた社員たちのために力を振り絞ろうとして、その無理が心臓に打撃を与えた。

 一時、工場の経営に希望ができたものだから予定が変わって浩太も余計にしんどかっただろう。舞もめぐみ(永作博美)も浩太の体調が良くなってほっとしたあとだったから浩太の異変に対するショックは余計に大きいはず。最初は医師の言葉に呆然となりじょじょに実感して表情を大きく崩していった。波打つ感情が目に見えるようだった。

 『舞いあがれ!』は様々な波形で出来ている。舞が愛する空を飛ぶ凧や飛行機、悠人(横山裕)が生業にする株、どれも上がったり下がったり波を打つ。心臓の動きもまた心電図の波で表される(ドラマでは出てきていないが)。浩太の死因を胃潰瘍の悪化にせず、心筋梗塞と思われるものにしたところに物語性を感じた。

 人間の感情も上がったり下がったり。視聴者も物語の展開に一喜一憂する。だが、すべてにおいて上がりっぱなし、下がりっぱなしということはないもので、その都度、はしゃぎ過ぎず、落ち込みし過ぎず、状況に振り回されないためにはどうしたらいいものか。「夢」である。夢という信念を持つことである。第60話で貴司(赤楚衛二)が好きだと語った北極星はその象徴である。嵐に遭って困ったとき、迷ったとき、北極星を目印にするように誰もが心のなかの星(夢)を確認するようにと『舞いあがれ!』は囁いているように思える。

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