『おむすび』の“母親”は今までの朝ドラと何が違う? “愛子”麻生久美子の描き方を考える

『おむすび』の“母親”は今までと何が違う?

 橋本環奈がクランクアップした報が届いた。2月11日にクランクアップしたそうだ。朝ドラことNHK連続テレビ小説『おむすび』もあと6週、最終回までのカウントダウンに入った感がある。

 第19週「母親って何なん?」では朝ドラに不可欠な「母親」がテーマになった。週の終わりの第95話。仕事でミスしたと自分を責めて結(橋本環奈)が落ち込んでいると、娘の花(宮崎莉里沙)が手製のおむすびを「食べり」と差し出す。「美味しいもの食べたら悲しいことちょっとは忘れられるやろ」と母譲りの言葉を言いながら。

 娘の作った塩むすびを結は味わう。その前に結は、管理栄養士として担当している拒食症の少女・曽根麻利絵(桧山ありす)に母親・紗英(潮田由香里)の母心を語っていた。娘のことを第一に思うのが母親なのだと。というのは、麻利絵は太ることを気にして食べなくなって栄養失調になってしまったのだが、それは母親の作る食事の量が多すぎたせいと母を責めていたからだ。紗英は自分が子どものころ満足に食べられない環境にあったので娘にだけはそういう思いをさせたくないと、良かれと思って料理をたくさん作って食卓に出していた。それを母心だと結は力説するのだ。

「親ってそういうもんやと思うんよ。どれだけウザいと思われても親って自分のことより自分の子どものことが何より大切なんや」

 結自身も母である。だが、彼女の場合は、花を溺愛するあまり何かに縛り付けてしまうようなことはない。わりと放任主義のように感じる。そもそも結は仕事がすごく忙しそうで、どちらかといえば翔也(佐野勇斗)のほうが花と一緒に過ごす時間が長いように、少なくともドラマのなかでは見えている。花はサッカーが好きで、スポーツという共通言語によって父と気が合うようである。ファッションの趣味もブルー系のスポーツファッションのようなものを好んでいて、結のかわいいギャル系とは趣味が合わなそうだ。花の気に入った服を「地味」と結は言っている。それでも、親子の仲が悪いわけではなく、3人、それぞれ好きに生きているのが米田家という印象だ。結の博多弁も、翔也の栃木弁、神戸の言葉の花とバラバラだけど気持ちは通じている。こういう家族も悪くない。おそらく「美味しいもの食べれば悲しいこと忘れられる」、結は母としてこの一点だけを娘に大事にしてほしいと思っているのだろう。そんな家族だから、娘が何かして落ち込んでいるのを母が励ますのではなく、母が落ち込んでいると娘が気を利かせておにぎりを作って励ますのである。

 従来の母の無償の愛情はゲストの曽根母娘で描き、新しい形を主人公の家庭で描き、そして、もうパターン、母親の姿がある。愛子(麻生久美子)である。彼女は十代で家出をして、名古屋から神戸に来たところ、聖人(北村有起哉)と出会い、妊娠して結婚。専業主婦として聖人を支えてきたのと同時に、ふたりの娘・歩(仲里依紗)と結を育て上げた。娘たちに手がかからなくなった頃、得意だった絵を生かして、ブログをはじめる。それが人気を呼び、書籍化しないかと出版社の編集者・白木(須賀貴匡)から声がかかり、梅田の出版社に出向く愛子。家族に内緒の行動が、歩にみつかり、「もしかして浮気?」と米田家がざわついた。

 愛子は娘たちの心配を払拭するため、3人で外食をする。どうやらこれまで親子で外食したことがないようだ。糸島時代、唯一、歩とバーで飲んで以来とは意外と母子の関係性が薄そうである。昨今、友達母娘や姉妹母娘のように仲のいい母娘は少なくないし、ドラマの舞台になっている2018年頃はそういう傾向が濃厚になっていたと思う。年頃になった娘と母はご飯やお茶をしにいったり旅行したりするイメージだが、米田家は、ほぼ実家でご飯を食べるだけのようだ。家で晩酌することもないのか、結は愛子がワインを飲むことに驚く。愛子はよそ行きの服も結の卒業式に着たものを何年も着ている(というかほぼ着たことがない)。

 なぜ、こんなにも質素なのか。あまり詳しく描かれていないが、やっぱり、阪神・淡路大震災で店舗兼住居を失って糸島に戻って、再び神戸に戻って来てと、苦労しているのかもしれない。さくら通り商店街もそれほど繁盛していないだろうし、働くだけでいっぱいいっぱいなのかもしれない。

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