満島ひかり、真骨頂の無音の演技 『First Love 初恋』が“プルースト効果”をもたらした所以

満島ひかり、真骨頂と言える無音の演技

 自分の初恋を覚えている人はどれほどいるだろう。得てして初恋は叶わないことの方が多いし、いつの間にか恋心と同時に記憶も薄れていくもの。だけど、忘れたはずの記憶がふと特定のにおいや音とともに鮮明に蘇ってくる時がある。

 Netflixシリーズ『First Love 初恋』は、この“プルースト効果”、あるいはそれに似た感覚がモチーフとしてたくさん散りばめられた作品だ。そして、そこにはヒロインを演じる満島ひかりの存在が必要不可欠だった。

 1990年代後半とゼロ年代、そして現在の3つの時代が交錯しながら、満島演じる也英(青年期:八木莉可子)と佐藤健演じる晴道(青年期:木戸大聖)の20年以上にもおよぶ初恋の記憶を辿る本作。宇多田ヒカルの名曲と壮大な景色が寄り添う二人の恋はあまりに美しく、思わず目を細めてしまいそうになるが、叶わない夢、果たせなかった約束といった現実も同時に押し寄せてくる。

First Love 初恋

 その“リアル”と“ファンタジー”が常にせめぎ合う世界に、満島はすっと自然に入り込む。しなやかな強さと、触れた瞬間に消えてしまいそうな儚さの両方を兼ね備えた彼女の存在は、まさに初恋そのもの。コインランドリーで幸せそうに眠る姿や、雨の中で楽しげにはしゃぐ仕草など、その一挙一動が愛らしく、“誰かの大切な誰か”であることを物語っている。

 だけどその実、也英は多くの願いを手放してきた女性でもある。思えば、満島はこれまでも役の上で普通なら押し潰されてしまいそうな重い過去や心に傷を背負ってきた。例えば、『Woman』(日本テレビ系)では様々な困難の中で二人の子供を育てるシングルマザーの小春、『カルテット』(TBS系)では父親によって偽の“超能力少女”に仕立て上げられ、世間からバッシングを受けた過去を持つチェロ奏者のすずめを演じている。

 でも決して、常に不幸な顔をしているわけじゃない。満島はどうにか生きていこうと地に足のついた生活を送りながらも、そこに痛々しさが滲み出てしまうようなリアリティのある役づくりをする。だからすぐに胸の内は見えづらいのだが、それを可視化してくれるのが満島の“目は口ほどに物を言う”演技だ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる