上白石萌音×深津絵里×川栄李奈『カムカム』が伝えた、“ひなたの道を歩くこと”の意味

 100年の物語が終わったーー。

 NHK連続テレビ小説第105作目の『カムカムエヴリバディ』。主題歌「アルデバラン」に乗せて描かれた三世代のストーリーは、私たちにさまざまなメッセージを贈ってくれた。ここではいくつかのキーワードを深掘りしながら、本作の芯がどこにあったのか振り返ってみたい。

 『カムカムエヴリバディ』の象徴的な構造のひとつが、安子編、るい編、ひなた編の3つのパートを複数のキーワードでつないだこと。「ジャズ」「ラジオ英語講座」「野球」「時代劇」……そして「あんこ」。ヒロインが変わり、時代が変化し時間が一気に飛んでも、これらのキーワードが必ず物語に組み込まれていたことで、私たちは1本の線に導かれるように安心してドラマに没頭できた。

 特に、一見地味な存在の「あんこ」が物語の中で果たした役割は大きい。岡山の小さな和菓子店「たちばな」に生まれた安子(上白石萌音)は、父(甲本雅裕)や祖父(大和田伸也)から「あんこのおまじない」とともに、美味しいあんこの作り方を学ぶ。運命の人、稔(松村北斗)との出会いもあんこがきっかけだったし、稔亡き後の生活に疲れ切った安子が、娘・るいの額に傷をつけてしまったのも、あんこを使った和菓子を配達した際の事故だった。

 18歳で岡山を出て大阪に移り、トランペット奏者の大月錠一郎(オダギリジョー)と恋に落ちて結ばれたるい(深津絵里)は、デビュー目前でトランペットを吹けなくなった錠一郎とともに京都に引っ越し、祭りの場で見た回転焼きの店を出すことを思いつく。

 幼い頃、誤解が元とはいえ母に「I hate you」との言葉を投げつけ、自ら母子の縁を切ってしまったるい。もしかしたら、るいが「あんこ」がメインの回転焼きの店を出そうと思いついたのは、無意識に母とのつながりを取り戻したいという慕情と、酷い言葉を投げかけてしまった贖罪の意味合いもあったのかもしれない。

 るいと錠一郎の娘・ひなた(川栄李奈)が当時の恋人・五十嵐(本郷奏多)と出会ったのも実家・大月で母のるいが焼いたあんこたっぷりの回転焼きがきっかけだった。さらに、小学生時代のひなたが憧れの時代劇スター、二代目・モモケンこと桃山剣之助(尾上菊之助)のサイン会に出向き、大月の回転焼きを手渡したことがまわりまわって、行方不明になっていた安子の兄・算太(濱田岳)とるいの縁をふたたび結び、その縁は安子の嫁ぎ先・雉真家と大月一家との関係をも再構築する。

 また、アニー・ヒラカワ(森山良子)と名を変え、ハリウッドのキャスティングディレクターとして来日した安子が、映画の仕事で出会ったひなたが自身の孫ではないかと思い当たるきっかけも、あんこがたっぷり入った大月の回転焼き。三世代のヒロインたちを見えない糸で強くつなぎ、周囲の人々にも影響をもたらした立役者こそ「おいしゅうなれ、おいしゅうなれ」と丁寧に受け継がれてきた「あんこ」なのだ。最終回で安子、るい、ひなたの3人がそろったラストショットが、おまじないを口にしながらあんこを煮るシーンなのは非常に象徴的であった。

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