『カムカム』演出陣が明かす、涙の抱擁の舞台裏 上白石萌音の復帰は“1日限り”だった

『カムカム』に戻ってきた上白石萌音

 『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)第111話にて、るい(深津絵里)とアニー・ヒラカワ改め安子(森山良子)が再会。2人の間にあった誤解、わだかまりがクリスマスの夜空に溶けていった。

 岡山の偕行社で開かれた「クリスマス・ジャズ・フェスティバル」にて、2人は再会を果たす。かつて笹プロでレコーディングされた錠一郎(オダギリジョー)のトランペットの音色をバックに、今や世界的トランペッターとなったトミー・北沢(早乙女太一)、ピアニストの錠一郎を引き連れ、るいは「On the Sunny Side of the Street」を歌唱する。母・安子に届ける思いで。

 安子は孫のひなた(川栄李奈)におぶられ、会場にやって来る。るいはその姿に気づき、「サニーサイド」を歌うのを一瞬やめてしまうが、覚悟を決めた表情を浮かべ瞳を潤わせながら最後まで歌いきる。そして、るいはステージを降りて、安子の元へと向かい、熱い抱擁を交わす。

 るいと安子が音楽を介して再会を果たすことは、初期から脚本を手掛ける藤本有紀の構想の中にあったと演出の安達もじりは明かす。それでも台本を読んだときは「感情を揺さぶられるような思い」だったという。ある程度、大掛かりかつ準備が必要なシーンになることは想定していたため、台本以前のプロット段階で再会シーンだけを抜き書きできないか、藤本にお願いし、深津の歌の稽古が進められていった。

 ポイントとなるのは、るいがどのような思いで歌うのかだ。上手に歌おうとするべきものなのか、目の前の観客に向かって歌おうとするべきなのか。そのどちらかはプロット段階では、汲み取ることは難しかった。台本が出来上がるまでは上手に歌う方向でも対応できるように練習し、本番では先述した感情の流れが見える歌唱シーンとなった。

 コンサートに招かれた和子(濱田マリ)や木暮(近藤芳正)など、大勢の人物のリアクションを収める必要があるため、何度か撮り直しはしているものの、通しでの本番は一発勝負。通常は3台の収録機を使って収録をしているが、このシーンだけは、安子、るい、ひなたの姿をしっかりと捉えられるように4台の収録機を用意して本番に臨んだ。

 抱きしめ合う、るいと安子。るいは額の傷に手を伸ばす安子を受け止め、「I love you」と情感たっぷりに伝える。幼き頃に母へと言い放った「I hate you」のアンサーだ。この言葉について安達は「るいが言ってくれることをみんなが望んでいる、そんな瞬間があったらいいなと待ち焦がれていた、藤本さんが迷いなく書いてこられたセリフでした」と語る。後ろではトミーと錠一郎が演奏を続けており、どれぐらいの声量で伝えるべきかも、音声部を含めひりひりしながら本番を迎えたという。

 「I love you」から流れるようにインサートされるのは古川凛が演じる幼少期のるい、そして上白石萌音が演じる安子が抱き合うシーン。これはもともとの台本にあった仕掛けで、藤本のプランによるものだ。上白石は一旦のクランクアップから半年以上が経ち、再び安子として『カムカム』の現場に戻ってきた。撮影されたのは、るいとの抱擁、さらに同じ第111話で回想として登場するアメリカに渡ってから安子・ローズウッドとしてロバート(村雨辰剛)と暮らす2シーン。安達は1日限りとなった上白石の復帰について「現場に入った瞬間に涙ぐむぐらい喜んで帰ってきてくださった」と明かす。

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