各ヒロイン編3つのキーワードから読み解く 『カムカムエヴリバディ』100年の物語

『カムカム』3つのキーワードから読み解く

「バトンを渡して、わたしは生きる。」(ひなた編)

 安子、るい、ひなた、三者三様のあり方で、各時代ごとの女性の生き方を映し出した本作において、ひなたは最終回の還暦前まで独身を貫いた。子どものころから「侍になりたい」と願い続けた彼女が、愛する時代劇を世界に広める仕事をしながら輝く姿。それは、「女は菓子職人にはなれない」「男はダンサーになれない」という、祖母・安子が背負わされた価値観への、100年後のアンサーだ。「結婚と出産だけが女性のあるべき姿」という社会規範はすでに遠い過去のものであると、ラストシーンのひなたの背中が雄弁に語っている。

 ひなたは、安子・るいから命を受け取り、稔の志と、英語、あんこのおまじない、錠一郎の「時代劇愛」を授かった。さらに、憧れのモモケン(尾上菊之助)から「侍の志」を、虚無蔵(松重豊)から「“日々鍛錬”する心得」を、そして1994年、岡山のお盆で平川唯一(さだまさし)から「カムカム英語」のバトンを受け取る。そしてその30年後、ラジオ英語講座の講師となった。

 子どもの頃、夏休みの宿題が間に合わずに泣きべそをかいていたひなたが、英語の勉強を1週間しか続けられなかったあのひなたが、一念発起してから毎日ラジオ英語講座を聴き続け、20年以上の歳月をかけて英語をものにした。40歳で留学もした。人は何度でも、いくつになってもやり直せる。

 るいに家族愛のバトンを渡した竹村夫妻にはじまり、錠一郎に名前とジャズを授けた定一(世良公則)、「私だけの左近」として抜擢した武藤蘭丸(青木崇高)にその後の黍之丞シリーズを譲ったモモケンらの姿を通じ、血がつながっていなくても「継承」はできるのだと、繰り返し描いている。戦後の闇市で金太から商いの志を授かったあの少年は、和菓子店「たちばな」を全国展開させるまでに成長させていた。

 かつて和子は「(店や家なんてもんは)形だけや」とるいに言った。大事なの店や家や名前などの「形」でなく、「志」と「思い」であり、そのバトンは誰でも渡すことができる。物語のアンカーであるひなたが、それを実現させるところに希望があり、未来がある。そしてそのバトンは、私たちの誰もが持つことができる、渡すことができる。

 『カムカムエヴリバディ』は「100年のファミリーストーリー」と謳いながら、ホームドラマでもなければ血族の物語でもない。「みんないらっしゃい」という名のとおり、実にオープンマインドな朝ドラだ。家族がいる人もいない人も、どんな属性の人も、どんな環境にいる人も、今、暗闇にいる人も、自分で見つけた「『ひなたの道』を歩けば、きっと人生は輝くよ」。

■配信情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
NHKオンデマンドにて配信中
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか 
写真提供=NHK

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