知念実希人作品初のアニメ化『天久鷹央の推理カルテ』も話題 “医療ミステリー”の系譜
TVアニメ『天久鷹央の推理カルテ』が2025年1月1日より放送開始される。同シリーズは人気小説の映像化であり、シリーズ1作目の初掲載は2013年、実にシリーズ開始から12年経過しての映像化である。原作者の知念実希人はかなり多作な作家で、実写化された作品も何本かあるが、アニメ化は初である。知念の作風とアニメの表現がどのような相性を見せるのか気になるところだ。
さて、原作者の知念は現役の内科医でもあり、その作風は本職の知識をフル活用したものである。いわゆる「医療ミステリー」と呼ばれるミステリーのサブジャンルに入り、探偵役の持つ医療知識が謎解きにそのまま活用されるニッチかつ限定的な作風である。
医療と謎解きは一見すると縁遠いものに見えるが、実は相性がいい。世界一有名な探偵シャーロック・ホームズの生みの親であるコナン・ドイルが医師でもあったのは有名な話だが、ドイルがホームズのモデルとしたのは自身がエディンバラ大学で学んでいたころの恩師だったジョセフ・ベルである。これは推測などではなく、ドイル自身が認めている。
医師は病気の診断をする際に、患者のことを調べ、観察から診断をくだす。その過程は探偵が事件を解き明かす過程と共通している。優れた医師であったベルは観察力に長けており、訪れる患者の外見から病名だけでなく、職業や住所、家族構成までを鋭い観察眼で言い当てて、学生らをしばしば驚かせていた。
ベルは警察の捜査に何回も関与しており、当人が探偵役として登場するテレビシリーズ『コナン・ドイルの事件簿』(2000年~2001年)はその事実が元になっている。弟子であるドイル自身も、慈善活動として冤罪事件を解決したことがある。
今回は『天久鷹央の推理カルテ』に関連し、医師が医療に関する謎を解き明かす「医療ミステリー」の系譜を紐解いていこう。
『Dr.HOUSE/ドクター・ハウス』(2004年~2012年)
『Dr.HOUSE/ドクター・ハウス』は、8シーズンにわたって継続したアメリカのテレビシリーズ。主人公のグレゴリー・ハウスは自らメスを握ることは稀で、他の医師が原因を特定できず匙を投げた患者の診断を行う、医療ドラマものとしては異色のタイプの主人公である。ハウスの部下たちはハウスの手足となり、患者の私生活まで調べ上げて病因の特定を行う。部下たちの集めた情報と自らの知識、観察眼で診断をくだすその姿は、さながら助手を動かし、自らは安楽椅子探偵に徹するネロ・ウルフのようである。
本作はシャーロック・ホームズを意識して制作されており、ところどころに原典の引用が見られる。ハウスと親友のウィルソンの関係はホームズと助手で親友のワトソンを思わせる。ホームズはコカイン中毒だが、ハウスは鎮痛剤のバイコディン依存症、極めつけは劇中で明らかになるハウスの住所で番地は"221B"である。ご存じない方のために注釈すると、シャーロック・ホームズの住所はロンドンのベイカー街221Bである。
主人公のハウスはアメリカ人の設定だが、演じたヒュー・ローリーはシャーロック・ホームズと同じイギリス人である。
『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』(2014年~)
『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』は日本のマンガ作品で、2016年には実写のテレビシリーズにもなっている。こちらもハウスと同じく、自らメスを握ることはなく、患者と直接向き合うことも稀な病理医の岸京一郎を主人公としている。患者を調べ上げて病因の特定を行うことを筋立ての基本に置いているのは『Dr.HOUSE/ドクター・ハウス』と共通しているが、本作の場合は病院に限定せず医療の世界全体を舞台に包括するような作りになっている。
『Dr.HOUSE』はキャラクターの私生活を除けば、ほぼ病院内でドラマが完結する。それに対して『フラジャイル』はもう少し舞台に広がりがある。象徴的なのが主要キャラクターの一人である、製薬会社のMR(医薬情報担当者)火箱直美の存在だ。彼女をメインとしたエピソードは製薬業界の問題点に切り込んだ内容で、こういった内容は『Dr.HOUSE』には見られなかった。あくまでも本作の軸足は医療ミステリーだと思うが、こういった点も魅力である。
メディアミックス展開だが、2016年のテレビシリーズで主演を務めた長瀬智也が芸能界を退いてしまったため、続編が制作される可能性は低いだろう。