宇野維正の「2024年 年間ベスト映画TOP10」 そこにアメリカ映画がある限り

宇野維正の「2024年映画ベスト10」

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2024年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、映画の場合は、2024年に日本で公開・配信された作品から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第18回の選者は、映画・音楽ジャーナリストの宇野維正。(編集部)

1. 『チャレンジャーズ』
2. 『デューン 砂の惑星PART2』
3. 『陪審員2番』
4. 『オッペンハイマー』
5. 『ツイスターズ』
6. 『瞳をとじて』
7. 『悪は存在しない』
8. 『パスト ライブス/再会』
9. 『Chime』
10. 『夜明けのすべて』

 本企画で毎年自分がここに書いてきたこと、そして1年半前に出版された拙著『ハリウッド映画の終焉』に書いたことが、誰の目からも現実として受け入れるしかなくなった1年だった。配信映画として製作がスタートしたディズニーの『モアナと伝説の海2』は世界中の劇場で大ヒットを記録。昨年のストライキを挟んで撮影されたクリント・イーストウッド最新作『陪審員2番』はワーナーの判断によって配信映画として公開。それらの出来事は、劇場作品と配信作品のボーダレス化というより、ハリウッドのメジャースタジオが行き当たりばったりの延命措置を図ることしかできなくなっていることを示している。

 昨年までとの違いは、これまでテレビシリーズだけでなく長編映画にも巨額の投資を続けてきた2つの配信プラットフォーム、NetflixとAppleの方針転換だ。2019年に始まったストリーミング・ウォーズの勝者となったNetflixは、投資の矛先をテレビシリーズや映画よりもはるかにマーケットの大きいスポーツ中継に向ける一方、例年秋以降に配信していたアワード狙いの長編映画が今年は姿を消し、『レベル・リッジ』や『セキュリティ・チェック』のような今となっては貴重な「普通のアメリカ映画」で名よりも実をとるようになった。Appleは昨年から続けてきたメジャースタジオと組んでの劇場公開戦略が、直前で限定公開(北米)となった『ウルフズ』で瓦解し、今後は長編映画部門への投資が縮小されると報じられている。『Saltburn』でAmazonと組んだエメラルド・フェネルのように、次作では劇場での世界公開を優先させるため、配信プラットフォームが提示した額よりもはるかに低い契約金でメジャースタジオのオファーを受けるケースも出てきた。いずれにせよ、「作家の映画」にとってNetflixもAppleも信頼できるパトロンにはなり得ないということも2024年には明らかになった。

 日本で活動をしている一人の映画ジャーナリストとしてより深刻なのは、ハリウッド映画、より範囲を広げてアメリカ映画が、実写作品に限ればもはや大衆の娯楽として成立しなくなっていることだ。クリストファー・ノーランのブランド力、アカデミー賞をはじめとする賞レースでの席巻、IMAX上映やフィルム上映などのイベント性もあった『オッペンハイマー』でさえ興収20億円に届かず、世界中で大ヒットを記録した『デューン 砂の惑星PART2』や『ツイスターズ』にいたっては興収10億円にも遠く及ばない。100年以上続いてきたこの国の「洋画」文化は、この先も趣味の対象として愛でられることはあるだろうが、産業としては絶滅の危機に瀕している。

 幸い、このような壊滅的な状況がやってくる直前のすべり込みで、日本でも配信プラットフォームでの視聴環境が整備されてきた。Netflixのサービスが日本で始まってからの9年間、自分の仕事における最優先テーマはそこにあった。同好の士の皆さん、これからも実写のアメリカ映画を運が良ければ劇場で、運が悪ければ自宅で、楽しみながら生きていきましょう。趣味として。

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