『潜水艦カッペリーニ号の冒険』は今こそ観たい正月ドラマに 眩しく映る異文化交流の形 

『カッペリーニ号の冒険』が描いた異文化交流

 「マンジャーレ、カンターレ、アモーレ」というのは、イタリア語で「食べて、歌って、愛して」(文法的に若干の違和感があることはさておき)を意味し、日本の旅行ガイドなどで頻繁に見受けられるイタリア人の気質を表す常套句だ。その3つを体現したかのような3人のイタリア人を軸にして、イタリアを象徴する食材であるトマトが「野菜なのか、果物なのか」という永遠の命題を戦時下における「敵なのか、味方なのか」に置き換え、陽気でポップなコメディとして仕上げたのが、フジテレビ系で1月3日に放送された『潜水艦カッペリーニ号の冒険』だ。

 物語の舞台は第二次世界大戦のまっただなか。イタリア国内では革命が起き、それまで日本と同盟国だったイタリアは敵である連合国側へと寝返ってしまう。そんななか、日本へ物資を輸送するために航行中だった潜水艦コマンダンテ・カッペリーニ号の乗組員たちはその事実を知らず、日本に着くや捕虜にされてしまう。イタリア語が喋れるものの、イタリア人の軟派な国民性を毛嫌いしていた堅物の日本海軍少佐・速水(二宮和也)は、ひょんなことから3人の乗組員、アベーレ(ペッペ)、シモーネ(ベリッシモ・フランチェスコ)、アンジェロ(パオロ)を、妹の早季子(有村架純)と暮らす自宅で面倒見ることになるのだが……。

 本作を手がけた「ホイチョイ・プロダクションズ」といえば、『私をスキーに連れてって』や『彼女が水着にきがえたら』と、バブル期に大ヒットした映画を次々と生みだしたクリエイティブチームであり、50代前後の視聴者にとってはその名前だけで刺さるものがあるだろう(30代前半の筆者にとっても『メッセンジャー』は90年代邦画のお気に入りのひとつであり、娯楽作品の作り込みという点においては信頼を置いている)。とはいえ近年では時代錯誤の代名詞として扱われることも少なくなく、長編での新作は『バブルへGO!! タイムマシンはドラム式』以来、ざっと15年ぶりだろうか。楽しみな反面、2022年に合う作品となっているかという点において不安があったことは否定できない。

 「ホイチョイ」作品でメガホンを取り続けてきた馬場康夫監督は、テレビドラマの演出を手掛けるのはこれが初めてだ。80年代終わりからの「ホイチョイ3部作」ではバブリーな現代劇を生み、90年代終わりの『メッセンジャー』では現代劇として、ある意味でバブルの崩壊を地で行くキャラクター造形を作り出し、『バブルへGO!!』では2007年から1990年のバブル真っ只中へとタイムリープ。そして監督としてクレジットされた前作であろうAKB48の「翼はいらない」のMVでは1972年の学生運動全盛期を描き、今度は第二次大戦中へと作品を重ねるごとにどんどんと過去へ遡っていくというのは、どこか潔さも感じる興味深い変遷である。

 演出面においては清々しいまでに娯楽に徹するスタイルを維持し、小ぢんまりとした速水の宅内のセットや周辺の街並み、さらには海に浮かぶ潜水艦を臨む合成ショットまで、徹底して“作り込まれた”非現実感を画面上に強調していく。この物語が実際のコマンダンテ・カッペリーニ号の逸話をモチーフにしたものであっても、描かれるストーリー自体はフィクションであるのだということを如実に言い表しているようにも見え、またそれは、正月ドラマとして戦争劇をやる上で決して明るさを損なわないようにしようとする気概もうかがえるほどだ。

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