2021年の年間ベスト企画
今祥枝の「2021年 年間ベスト海外ドラマTOP10」 判断基準揺らぐ“迷える1年”
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2021年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、海外ドラマの場合は、2021年に日本で放送・配信された作品(シーズン2なども含む)の中から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクト。第13回の選者は映画・海外ドラマライターの今祥枝。(編集部)
1.『ミセス・アメリカ~時代に挑んだ女たち~』(WOWOW)
2.『真夜中のミサ』(Netflix)
3.『インベスティゲーション』(スターチャンネル)
4.『地下鉄道~自由への旅路~』(Amazon Prime Video)
5.『フォー・オール・マンカインド』S2(Apple TV+)
6.『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』(ディズニープラス)
7.『メア・オブ・イーストタウン/ある殺人事件の真実』(U-NEXT)
8.『バリー』S2(U-NEXT)
9.『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』S1&S2(ディズニープラス)
10.『ヒール:レスラーズ』(SRARZPLAY)
次点.『テッド・ラッソ』S2(Apple TV+)
2021年は、「意義がある作品」と「面白い作品」に対する自分の評価軸について自問自答する1年だった。まだまだ悩んでます。端的に言うならこれまでとはまた別の意味で「迷える年」だったかもしれない。ベスト10は今年観た作品の初見時の高揚感を鑑賞記録ノートで振り返りながら、自分の中の判断基準や価値観が揺さぶられた10本を選びました。
1位はWOWOWの、しかも2020年の作品。去年のベスト10でも触れたが、私にとって実質的に2020年のベスト1なのだが、2022年こそ動画配信サービスで広く視聴される日が1日でも早く来ることを願いつつ。
フェミニズム運動の歴史や現代のフェミニストに対する誤解や偏見、またフェミニスト同士の分断を生む根っこの部分の一端を理解することができる優れもの。さらに名優のキレッキレの演技も見応えがあるが、人はこれほどまでに意見や考え方が誰1人として同じではないのだということを改めて実感させられた作品。そしてこんなにも1人1人が違うのにその全員が、たとえフィリス・シュラフリーでさえ「わかる」と思えることもあれば、フェミニストたちが抱える矛盾にも親しみや愛おしさを覚えた。個人的に今年はとりわけ「私はいろんな人の意見に耳を傾けることのできる柔軟な人間ですよ」を装いながら、自分の考えを絶対に曲げるつもりがなく相手を論破しようとする姿勢が見え見えな自称“進歩的な価値観を持つ人”をリアルでもSNS上でもよく見かけた。自分とは異なる意見を持つ人との対話がどれほど難しいことであるか。『ミセス・アメリカ』が伝えるメッセージはブーメランとして私の胸にもぐっさり刺さったままである。
『真夜中のミサ』はSNSとキャンセルカルチャーの時代に、痛烈かつ切実なメッセージをホラーというジャンルに落としこんだマイク・フラナガンを心の底からリスペクト。私は安易なキャンセルカルチャーへの否定的な意見には賛同してはいない。犯した罪に対してそれ相応の社会的制裁が下されるべきだと思うが、現実として「反省している」ということをどのように証明できるのか? といった問題がずっと心に引っかかっている。例えば過去にSNSで発言した当時の自分と、今の自分は成長し、その当時の意見とは異なる人間となったことを証明する方法はあるのか? 一度罪を犯した人間は、一生そのことを忘れずに生きるべきだろうが、どれだけの罪を犯したら人生の全てを失うに値するのか。死して償わせるまで人を糾弾し続けるSNS社会における歪んだ正義感といじめ体質(村八分文化)について思わずにはいられない作品だった。
同じく次点の『テッド・ラッソ』S2が伝えるメッセージ性も今の自分にはリアルに響いた。“いい人”であるテッド・ラッソ(ジェイソン・サダイキス)は現代の癒しだが、何を言っても言い返さない人、誰にでもやさしいからと言って傷ついていないわけではないのだ。またそうしたテッドであっても誰かを傷つけてしまう可能性がある、つまり世の中の全員がそうであるのだが、どんな人間にもある加害性について向き合うことになる展開はS1の楽しみとは異なるもので評価が分かれるところかもしれない。が、あえて心地よさから脱して難しいテーマに踏み込んだことを評価したい。