『賢い医師生活』は何を描こうとしたのか? 伏線とテーマ、演出の文法から考察

『賢い医師生活』は何を描こうとしたのか?

 韓国での放送開始から18ヶ月間に渡り世界中のファンを虜にしてきた『賢い医師生活』シーズン2がフィナーレを迎えた。S2の全12話を毎週レビューしてきた中で見えたドラマの文法とテーマを、観賞後向けに考察してみたい。

 監督・プロデューサーのシン・ウォンホと脚本のイ・ウジョンの代表作『応答せよ』シリーズは、現在から過去を振り返る謎解きと、張り巡らせた伏線を意外な形で回収していく見事な構成で作られていた。その構えで『賢い医師生活』を観ていると、最終回を迎えても意味深に置かれていたイースターエッグが放置されたままで、どうもすっきりしない。イースターエッグとは、イースター(復活祭)を祝いカラフルに色塗られた卵のことだが、ソフトウェアの世界ではエンジニアが遊び心で仕込んだ裏技や隠しコマンドの呼称として使われている。映画の世界では、アメコミ作品などで作品内に隠されたヒントやユニバースをつなげるちょっとした伏線のことを指す。

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 バラエティ番組出身のシン・ウォンホとイ・ウジョンのドラマの視聴者は、『応答せよ』シリーズで無数に仕込まれたエッグハントに夢中になった。だが、彼らのドラマの本質はゲーム的な仕掛けではなく、言葉にするのが難しい感情の機微を笑いと涙に乗せ、美しい台詞で描くところにある。映画やドラマにおいて、観客の記憶力・分析力を試すかのように仕込まれた無数の伏線を見事に回収していく脚本・演出がもてはやされることがあるが、それだけが優れた作品の基準だろうか? イースターエッグを見つけられないと、作品を楽しんだことにならないのだろうか? 『賢い医師生活』で記号的に置かれていた伏線のようなものは、物語の本質には関係のない“釣り”だったのだろう。それらの謎が明かされなくても、視聴者のもとに届けられた暖かなメッセージに変わりはない。

 ナレーションが一切なく、限られた状況説明で進む群像劇の『賢い医師生活』は、視聴者に全知全能の視点が与えられたようなもの。全24話分の時間をユルジェ病院やその周辺を浮遊するように過ごし、各医局を俯瞰で眺め、人間関係も把握しているつもりになる。5人の関係も、当事者同士しか知らないことや、当人だけが秘めていることまで知らされている。だからじれったく感じ、彼らの努力や願いがかなうと、まるで実際の友達のことのように嬉しくなる。それらは共感と呼ばれるものだ。

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 だが、“反転と結末”のS2第12話では、今までの23話は全知全能の視点を錯覚していたのであって、実際は彼らしか知らないことのほうが多いのだと気づかせられる。無双の聖人君子のようなソンファ(チョン・ミド)とイクジュン(チョ・ジョンソク)には、彼らの友人や部下が見たら卒倒しそうな二人だけの世界がある。トランプで遊んでいるだけで二人の関係を見抜いた妹も音痴が脳内で修正されている兄の姿を知らないし、高校時代からの友人は「自分から相手を好きになる彼」の姿を初めて目撃する。仲間からもマザコンと呼ばれていたソッキョン(キム・デミョン)の恋愛上級者ぶりに驚かされるが、そんな面を20年来の友人に見せていなかっただけで、恋人たちが共有する記憶の中にあればいい。礼儀がないとされるジュンワン(チョン・ギョンホ)は、エレベーターに乗り合わせた双子のインターンを送っていくと申し出る。人一倍寂しがりで、ケーキやコーヒーを気前よく奢ってくれる先輩なら、後輩を車に乗せるくらいするだろう。ジョンウォン(ユ・ヨンソク)は手術前に手を洗浄しながら十字を切る。難しい手術前だからかもしれないし、今までそのシーンが描写されていなかっただけで、いつもの儀式かもしれない。

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