Apple TV+初のヒット作『テッド・ラッソ』 韓国ドラマ『賢い医師生活』との共通点とは?

『テッド・ラッソ』『賢い医師生活』に共通点

 7月から毎週金曜日(北米東海岸深夜0時、西海岸時間木曜21時)に配信されていた『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』シーズン2がフィナーレを迎えた。大学アメフトチームのコーチ、テッド・ラッソ(ジェイソン・サダイキス)が専門外のイギリスのサッカークラブのコーチに就任し、米英カルチャーギャップを機転の効いた話術と細やかな心遣いでクリアしていくシーズン1を経て、心の奥底の深いところにある痛みにそっと手を伸ばすようなシーズン2だった。すでに発表されているシーズン3は2022年配信を目指し製作が開始されている。

 9月19日に発表された第73回エミー賞で、コメディシリーズ部門の作品賞、主演男優賞(テッド・ラッソ役のジェイソン・サダイキス)、助演男優賞(ロイ・ケント役のブレット・ゴールドスタイン)、助演女優賞(レベッカ役のハンナ・ワディンガム)の主要4部門含む7部門を受賞、2019年11月に鳴り物入りでサービス開始したApple TV+最初の人気シリーズとしてマイルストーンを築いた。

 2020年配信開始のシーズン1は、新監督テッド・ラッソのユニークな指導で、AFCリッチモンドのプレミアリーグ残留可否をコメディ成分多めで描いた。全12話からなるシーズン2は、選手やバックオフィスのスタッフの内面に切り込んでいく。チームのカウンセラーとしてシャロン(サラ・ナイルズ)が登場し、スポーツ界におけるメンタルヘルス問題や有害な男らしさ(トキシック・マスキュリニティ)が落とす影が描かれる。第1話、エースのダニ・ロハスが不運な事故によるイップス(アスリートが心理的要因でスランプに陥る状態)に見舞われ、そこからチームやオフィスの人々の“人生におけるイップス”が明らかになっていく。

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Apple TV+の利点を活かした『テッド・ラッソ』のプレイリスト

 『テッド・ラッソ』シーズン2第10話「お葬式(原題は英国産ラブコメの名作をもじった「No Weddings and a Funeral」)」は、人生と音楽、記憶と現在をつなげるこのドラマのエッセンスが詰まったような神回だった。1987年のポップミュージックを悲しく美しく甦らせたシーンに、オリジナル楽曲のアーティスト自身が配信後に感涙のメッセージを発信しているので、気になったら検索してみてほしい。

 マムフォード&サンズのマーカス・マムフォードが音楽監督として参加しているように、『テッド・ラッソ』における音楽はもう一人の登場人物のような存在感を持つ。それがApple TV+配信のドラマであることを最大限活かした仕掛けに現れる。

プレイリスト「テッド・ラッソ:ロッカールームジャム」

 Apple Music内の『テッド・ラッソ』のセクションには、AFCリッチモンドのロッカールームで流れている曲を集めたプレイリストがある。その中の1曲、80年代に活躍した女性歌手マルティカの「トイ・ソルジャー」は、テッドがシーズン1から握り締めている、アメリカに残してきた息子がくれたおもちゃの兵隊とリンクする。勝利を目指し前進するしかない選手たち、家父長制に囚われ、善き人間を演じることがリーダーシップだと盲信するアメリカ的美徳に毒されていたテッド、毒親の関心をひくために自己犠牲を払ってきたジェイミーなど、社会の中の小さな存在(=おもちゃの兵隊)として懸命に生きるなかで、だんだんとメンタルのバランスを崩していく。シーズン2がフィナーレを迎えたあとにシーズン1を見直すと、彼らを蝕む魔物は足音を立てずにじわじわと近寄っていたことがわかる。シーズン1のラストで道具係からアシスタント・コーチに“実力で”出世したネイト(ニック・モハメッド)のキャラクターは、シーズンをまたぎ時間をかけて構築されている。不当な扱いを受けているグループ(underrepresented minority)のネイトが、承認欲求を満たすことでかろうじて精神の均衡を保っていたことを、彼の髪の色のグラデーションで描いている。社会状況やボタンの掛け違いなど、複合的要因によって真綿で首を絞めるように追い込まれたネイトは、目の前にあるものを仮想敵に据えてダークサイドに堕ちていく。

2021年の夏に提起する、スポーツ界におけるメンタルヘルス問題

 第7話、モデルからPRエージェントとしての才覚を表し、チームオーナーのレベッカと仕事と友情を掛け合わせたバディになっていくキーリー(ジュリアン・テンプルの実娘、ジュノー・テンプル)との距離感を掴みかねていたロイが「Hey、Siri!」と呼びかけると始まるプレイリスト「鈍感でごめん」もApple Musicでシェアされている。

プレイリスト「鈍感でごめん」

 このエピソードのタイトル「心のゆとり」の原題は、「Headspace」。このタイトルから想起されるのは、コロナ禍以前から人気を集め、ジェシカ・アルバも出資するマインドフルネスのための瞑想アプリ、ヘッドスペースだ。Netflixのシリーズ『ヘッドスペースの瞑想ガイド』も配信されている。

『ヘッドスペースの瞑想ガイド』予告編 – Netflix

 ヘッドスペースは2019年からサッカーアメリカ代表およびメジャーリーグサッカーと契約し、選手、コーチ、スタッフにマインドフルネスを導く瞑想法を提供している。『テッド・ラッソ』のシーズン2が配信開始になったのは7月23日、東京2020オリンピック競技大会開会式と同日だった。スポーツ界のメンタルヘルスについては、常に警鐘が鳴らされてきた。「心の健康を保つため」に、テニスの大坂なおみ選手が試合後の記者会見を見送り、体操女子アメリカ代表のシモーン・バイルス選手が団体競技の決勝と個人総合競技の決勝を棄権したことも記憶に新しい。『テッド・ラッソ』シーズン2は、配信時期も含め意識的にこの問題に取り組もうとしていた。



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