『イン・ザ・ハイツ』『オールド』『シンデレラ』 ラテン系俳優の主演作が目立つ2021年
ハリウッドで俳優や監督などの多様性が重要視されるようになって久しい。2015年と2016年のアカデミー賞では、俳優部門のノミネートがすべて白人だったため、SNSで“#OscarSoWhite(白すぎるオスカー)”のハッシュタグがトレンドとなり、数多くの批判が寄せられた。その影響で2020年に米アカデミー協会は、2024年以降の作品賞候補の規定に、一定のダイバーシティを担保する条件を追加した。このルール変更は賛否両論を集めたが、差別を撤廃しようという姿勢は評価すべきだろう。そしてそれは実際に、製作される作品にも反映され始めている。
アフリカ系をメインに据えた作品は、長い歴史があり数多くの名作があるが、近年はそれ以外のマイノリティを描いた作品にも注目が集まっている。2018年にはキャストにアジア系の俳優のみを起用した『クレイジー・リッチ!』が全米で大ヒットを記録。2020年には、韓国からの移民家族を描く『ミナリ』が注目を集め、韓国の大女優ユン・ヨジョンがアカデミー賞助演女優賞を獲得した。また、2021年には世界中で大人気を誇るマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)にもアジア系ヒーローが登場し、その活躍を描いた『シャン・チー/テン・リングスの伝説』も高い評価を獲得している。
このように、近年アジア系を中心とした作品も存在感を強めてきた。そんななか、2021年になって特に注目を集めているのは、ラテン系の俳優が主演を務める作品だ。2020年のアメリカ国勢調査局の統計によると、アメリカの総人口におけるラテン系/ヒスパニックの割合は18.7%を占め、アフリカ系を抜いてアメリカ最大のマイノリティとなった。もはや“マイノリティ”という言葉さえ、適していないように思える。そんな彼らを、エンターテインメント業界も無視することはできない。では、ラテン系俳優が主演を務めた作品にはどんなものがあるのか。2021年の注目作を振り返っていこう。
ラテン系コミュニティのリアルを描いた『イン・ザ・ハイツ』
今年7月に日本公開された『イン・ザ・ハイツ』は、ニューヨークの片隅にあるラテン系のコミュニティ、ワシントン・ハイツを舞台としたミュージカル映画だ。原作者は、建国の父たちを非白人のキャストが演じ、そのなかの1人であるアレクサンダー・ハミルトンの半生をヒップホップに乗せて描いた大ヒットミュージカル『ハミルトン』(2015年初演)で一躍時の人となったリン=マニュエル・ミランダ。プエルトリコ系である彼自身ワシントン・ハイツの出身で、今でもそこに住んでいるという。
『イン・ザ・ハイツ』は2008年にブロードウェイで上演され、その年のトニー賞で作品賞、楽曲賞、振付賞、編曲賞の4冠を達成した、こちらも大ヒットミュージカルだ。その映画化作品では舞台版と同様、主演キャストからエキストラにいたるまで、ほとんどがラテン系の俳優たちで埋め尽くされている。主人公のウスナビ役を務めたのは、『ハミルトン』のオリジナルキャストの1人で、プエルトリコ系のアンソニー・ラモス。故郷に帰る夢と恋の間で揺れる彼が想いを寄せるヴァネッサは、メキシコ出身のメリッサ・バレラが演じている。またスタンフォード大学に進学し、コミュニティの希望の星であるニーナを演じるのは、ドミニカ系のレスリー・グレイス。
メインキャストのほとんどは、これから活躍が期待される俳優陣だが、彼らの圧巻のパフォーマンスは、もちろん本作の最大の見どころだ。普段から街中で音楽が流れるワシントン・ハイツで撮影が行われた本作は、エキストラとして実際の住民も多く参加し、見事に街の空気感をそのまま切り取っている。また現代ならではの政治的背景として、オバマ政権が制定し、トランプ政権で撤廃となった「若年移民に対する国外強制退去延長措置(DACA)」の問題も絡み、移民である彼らが悩みながらも歩みを止めずに生きていく姿が、力強く描かれた。『イン・ザ・ハイツ』は、マイノリティの人生讃歌として多くの人の心を揺らし、勇気を与える作品だ。