夏帆×斎藤工×中川龍太郎監督がコロナ禍で見つめ直したこと 『息をひそめて』鼎談

夏帆×斎藤工×中川監督『息をひそめて』鼎談

 コロナ禍となった多摩川沿いで暮らす人々に光を当てたオムニバスドラマ『息をひそめて』がHuluにて4月23日より独占配信された。

 『四月の永い夢』『わたしは光をにぎっている』『静かな雨』の中川龍太郎が配信ドラマ初監督を務め、各話に登場する市井の人々を、夏帆、村上虹郎、安達祐実、三浦貴大、瀧内公美、光石研、斎藤工、石井杏奈、蒔田彩珠、萩原利久、長澤樹、横田真悠、小川未祐らが演じる。

 リアルサウンド映画部では、中川監督と本作に出演する夏帆、斎藤工の鼎談インタビューを行い、本作についてや、コロナ禍を通して見つめ直した、生活の些細なことや生きていく上で重きを置いているエンタメについて語ってもらった。(編集部)

夏帆と斎藤工からみた中川龍太郎監督

――「コロナ禍」の状況を描いた作品であることはもちろん、全8話のオムニバス作品であること、さらにはキャストの豪華さなど、そのスピード感とボリュームにまずは驚いたのですが、この作品の企画はいつ頃どのようにスタートしたのでしょう?

中川龍太郎(以下、中川):最初の緊急事態宣言が出る直前だったので、去年の3月ぐらいです。僕とプロデューサーで「今の社会で起きているいろいろな問題は、コロナによって起きたというよりも、コロナによって顕在化しただけで、もともと社会の中にあった問題だよね」みたいな話になって。僕がそういうことを、「攻撃的なアプローチではなく、市井の人々に寄り添うようなタッチで描けないだろうか?」「そのためには、僕の視点だけではなく、僕とは全然違う経験をしている人や、違う年代の人たちの視点も、きっと必要で……それを群像劇的に作ったらどうだろうか?」と提案したらプロデューサーが、「それなら、やってみようか?」ということになって、この作品が動き出した感じです。まあ、最初は僕も思いつきで言ったので、まさか実現するとは思ってなかったんですけど(笑)。

――この「多摩川沿いで暮らす人々」というコンセプトも、割と早い段階からあったのですか?

中川:そうですね。僕自身、多摩川の近くで生まれ育って、すごく馴染みがあるのはもちろん、こういう特殊な状況に直面したとき、人間たちは右往左往しながら変わっていくわけですけど、その一方で、変わらないものとして、多摩川の川の流れがあると思っていて。そういう「変わらないもの」に包まれながら、僕たちは生きているわけです。そこらへんが、この作品の軸として描けるといいなというのは、早い段階からありました。

――そんな「多摩川沿いで暮らす人々」として、夏帆さん演じる川沿いで食堂を営む「増田妃登美」(第1話、第8話)、斎藤工さん演じる高校の合唱部の顧問「水谷光生」(第1話、第7話、第8話)が登場するわけですが……お二人とも、中川監督の作品に出演するのは今回が初ですよね?

夏帆:そうですね。今回初めてご一緒させていただいたんですけど、共通の知人が何人かいて。その人たちを介して、実は何度かお会いしたり、いろいろお話は聞いていました。中川さんとは同世代ということもあって、そういう方とご一緒できる機会……特に、同世代の「作り手」の方とご一緒するのは、私にとってもすごく刺激的なことで。私は10代の頃からこのお仕事をしているので、監督と言ったら、これまでどうしても自分よりも年上の方が多かったんですが、そういう意味でもすごく嬉しかったというか、今回お声掛けいただいて、とても光栄でした。

斎藤工(以下、斎藤):僕もお仕事としては今回が初めてになるんですけど……実は僕も、中川さんが一本目の長編映画を撮る直前ぐらいの頃に、今回の『息をひそめて』にも出演している(村上)虹郎さんの誕生会か何かがあって、そこで最初にお会いして、監督としてのビジョンみたいなものを、僕にも話していただいたことがあったんです。そのあと中川さんが生み出していった作品が、本当に素晴らしくて。僕は中川さんの『わたしは光をにぎっている』という映画が特に好きなんですけど、あの映画も「失われていくもの」と「変わらないもの」を描いた映画であって……そのテーマは、今回の作品ともちょっと共通しますよね?

中川:確かにそうですね。

斎藤:だから、年齢で言うとものすごく若い監督になると思うんですけど、その作品のイメージとしては、どこか成熟したところのある監督というか、すごく堂に入ってる方だなと思っていて。なので、今回お声掛けいただいて、僕もすごく嬉しかったです。

中川:夏帆さんも工さんも、いつかご一緒したい俳優さんというか、ずっと気になっていた俳優さんなんです。なので、この作品に出ていただけて、本当に良かったなって思っていて。夏帆さんと工さんって、自分のまわりにいるような市井の人たちを、等身大の感じで演じることができる俳優さんじゃないですか。もちろん、こうやって実際にお会いすると、とても素敵な方々なんですけど、すごく普通の感じの演技ができる方々というか。それがすごいなって、常々思っていて、なおかつ、今回の作品には、それがすごく合っていると思ったんですよね。

作品の主人公は「多摩川」

――中川監督の作品って、ある場所や景色の中にいる人物を、じっくり捉えていくようなところがあって。それだけに、役者に求められるものも結構大きかったんじゃないですか?

夏帆:そうですね。中川さんって、もちろん映画監督なんですけど、映画監督っぽくないというか、お芝居のつけ方やシーンの組み立て方が、他の方とはちょっと違うところがあるなと感じました。少なくとも、今まで自分が経験したことのないやり方で作られていて。もちろん、「こういうふうにやらなきゃいけない」という決まりがあるわけではないんですけど、でもどこかしら「こういうふうに作るよね?」っていう感じがあるじゃないですか。でも、中川さんは、そういうものとは、また違うところにいらっしゃるような感じがして。そこが私は、すごく刺激的でした。

斎藤:中川さんの映画って、これまでの作品もそうだと思うんですけど、フィクションとノンフィクションの境目が無いようなところがあるんですよね。たとえば今回の作品の僕のパートだったら、高校の合唱部の生徒たちの中には役者さんもいるんですけど、実際に高校生で合唱部をやっている方もいて。それは台本には無いんですけど、僕がその生徒たちに質問を投げていくような感じで撮っていったところがあって。

――顧問の先生と生徒が普通に話すような感じで?

斎藤:そうです。彼らと雑談をしていく中で、彼らにとって「コロナ禍」がどういうものであったのかみたいなことを、僕が聞いたりして。それこそ、この作品の中にあるように、コロナのせいで発表会ができなかったりすることもやっぱりあって。そこは本当にドキュメントなんですよね。そうやりとりがあった上でのシーンというか、そういう「作為の無い作為」みたいなものは、僕もずっと思っていたし、そういうものが溢れた現場でした。

――なるほど。そこが中川監督らしさというか。

斎藤:あと、最終話の夏帆さんもいらっしゃった河原の合唱シーンで、従来の流れでいくと、僕と夏帆さんはそこで一瞬でも目が合うのかなって、僕はちょっと思っていて。でも、監督に聞いたら「あ、そこは見なくて大丈夫です」と言われて……そこが中川さんらしいなって思いました。この作品は、そういう話ではないというか、中川さんが見ている景色は、そこじゃないんだなって。普通だったらそこで、ふたりが目を合わせるみたいなドラマを付け加えちゃうんだけど。

夏帆:実は私も、現場で同じことを聞いてしまいました(笑)。「そこは意識しなくていいんですか?」って。

中川:そうでした(笑)。

――夏帆さんと斎藤さんが演じる登場人物の関係性に収束するのではなく、もっと全体として描いていくような。

斎藤:この作品の主人公は、やっぱり「多摩川」なんですよね。そういうふうに僕は勝手に捉えていて。全部のエピソードに多摩川が映っていて、そもそも川というもの自体、いろんなところから水が集まって、ひとつの流れを作っているわけじゃないですか。そういうことも含めて、この『息をひそめて』という作品は、ひとりひとりの「個」の話ではあるんですけど、それが「多摩川」というものに集約していく物語なんだと思っていて。個人を描いた作品である同時に、川を描いた作品でもあったんですよ。

中川:まさにおっしゃる通りです。

――河原の合唱シーンは、非常に印象的ですよね。最後「歌」で終わるというのは、最初から決めていたんですか?

中川:そうですね。『息をひそめて』というタイトルなので、最後みんなで声を出して歌うのは、すごくいいんじゃないかなって。今、工さんがおっしゃられたように、それも川と同じなんです。合唱も、ひとりひとりの声が合わさって、ひとつの歌になるわけで。そこで、オムニバスの群像劇が全部繋がるような気がしたというか、そういう意味でも最初からこのラストしかないなというのは思っていました。

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