夏帆×斎藤工×中川龍太郎監督がコロナ禍で見つめ直したこと 『息をひそめて』鼎談

夏帆×斎藤工×中川龍太郎監督がコロナ禍で見つめ直したこと 『息をひそめて』鼎談

「何かしないと孤独に飲まれそうだった」

――今回の『息をひそめて』という作品は、コロナ禍の人々を描いた群像劇であると同時に、まさしくコロナ禍で撮影された作品でもあって……そこには、さまざまな苦労や葛藤もあったんじゃないですか?

中川:そうですね。感染症対策を徹底するのは、もちろんなんですけど、僕たちの仕事は、物語を作ったり映像を作ったりすることだと思っていて。そういうものがあることによって生きていけるという人は、たとえどういう時代的な状況であろうとも必ずいると思うんですよ。それを信じているというか、そういう一瞬の光みたいなものを自分たちは作りたいし、作ろうとしているんだなというのは、この状況の中で改めて思いました。もちろん、コロナのせいで作品の制作や公開が延期になったり、そういう苦労は僕たちに限らず、みんなさんあったと思うんですけど、そのことでかえって、ものを作ることの意味みたいなものが、逆に際立ったところもあると思っていて。こういう状況の中で、無理に暗い話を作ったり、露悪的な話だったり投げやりな話を作ることって、かえって寒々しく感じるようなところがあるじゃないですか。

――なんとなくわかります。

中川:そうではなくて、今、僕たちが描かなきゃいけないのは、人々に寄り添うような話だと思うんですよね。そういうところに、僕だけではなく、今、たくさんの人の気持ちが向かっているような気がして。そういう意味では、悪いことばっかりではないんじゃないかなという気もしています。

――夏帆さんと斎藤さんは、いかがですか? 奇しくもお二人は、去年の8月に配信されたオムニバス作品『緊急事態宣言』にも出演されていて。コロナ禍においても、積極的に活動されている役者さんという印象がありますけど。

夏帆:ああ、確かにそうですね。たまたまコロナを題材とした配信作品が重なってしまったのもあるんですけど(笑)。

斎藤:他の現場が完全に止まっていたわけではないんですけど、何かしないと孤独に飲まれそうだったというのは正直あります。こういう状況になってから、リモートで打ち合わせとかもするようになったんですけど、それが終わったあと、ブラックアウトした画面にぼんやり映っている自分の顔を見てしまったときの孤独というか……それまで感じたことのない孤立感みたいなものってあったじゃないですか。

――リモートのやりとりを終えたあとって、ちょっと「無」の状態になりますよね。

斎藤:その状態から抜け出すためのエネルギーというか、そういう気持ちの立ち上がり方があるんだっていうのは、コロナ禍になって初めて知ったところがあって。そこは認めざるを得ないというか、そういう孤独みたいなものを、日々突き付けられるような感じはありました。

――夏帆さんは、いかがですか?

夏帆:私は、自粛期間に仕事と距離を置けたことが、意外と良かった気がしています。それこそ、『緊急事態宣言』で久しぶりに現場に行ったときに、すごく楽しいって思ったし、そうやって仕事ができるありがたさも、改めて感じることができたので。それまでは、撮影現場に行くことが自分の日常過ぎて気づかなかったんですけど、こんなにも幸せなことなんだって。

中川:今回の作品も、実は結構久々に出てくれた作品だったんですよね。

夏帆:そうなんです。去年はもともと、コロナに関係なく、お休みをいただいていて、この現場も、実は半年ぶりぐらいの現場だったんです。だから、最初はちょっと現場に行くのが怖いなという感じがあったんですけど、実際現場に行ってしまうと、やっぱりすごく楽しくて(笑)。

――(笑)。

夏帆:あと、今回の作品の撮影を通して、多摩川の近くって、こんなにも美しい場所だったんだって、改めて気づきました。それも、役者というお仕事と同じで、あまりにも自分の日常に溶け込み過ぎていたからこそ、普段あまり意識したことがなかったなと。きっと、そういう景色や時間が、自分の日々の中にも、たくさんあるんだろうなというのは、この作品を撮りながら、すごい思いました。

――たまたまかもしれませんが、みなさん東京近郊の出身で、恐らく子どもの頃から多摩川にも馴染みがあって、そういう「都会/地方」という意味での「東京」ではなく、「東京」という町の中にある「地域性」みたいなことも、今回の作品を通じて改めて感じたんじゃないですか?

中川:そうかもしれないですね。言われてみれば、『わたしは光をにぎっている』も、そういう話だったわけで、子どもの頃は、田舎が欲しいなって、ちょっと憧れたりするけど、よくよく見ると、自分たちの身の回りにも、美しいものはたくさんあって。多摩川は、その最たるものかもしれないですよね。

夏帆:そうなんですよね。車で多摩川沿いを走ったり、それこそ多摩川の近くには撮影所も多いのでよく行くんですけど、これまでそんなに意識したことはなかったなって。

斎藤:今泉(力哉)監督の『街の上で』という映画のことを思い出してました。あの映画も都会のローカルというか、下北沢という街で暮らす若者たち描いた映画で、そういう地域性と映画みたいなものって、東京に限らずなのかもしれないですけど、僕が監督として参加した『ゾッキ』という映画も、愛知県の蒲郡市が舞台になっていて。そういう地域に根付いた「匂い」みたいなものが、今、改めて注目されているのかもしれないですよね。それはコロナ禍という状況的なものもあるのかもしれないですけど、ローカルな場所で局所的に何かを作っていくというか、遠出をして何かを作るというスケール感じゃなくても、そこで生まれる作品がある。そういうものが、規模感も含めて、今、求めてられているのかもしれないですよね。

「ひとつのものと向き合う時間が大事になっていく」


――地に足がついた作品というか。『息をひそめて』も、まさにそういう作品になっていると思います。それでは最後、本作に寄せてひと言ずつ。

斎藤:僕自身、自粛期間中に、いちばん救われたのがエンターテインメントだったというか、たくさんの映画やドラマにすごく救われたところがあるんです。今の時代って、ものすごく情報に溢れていて。それこそ、一日に約6万ぐらいの情報を、大小問わずインプットしちゃうような時代らしくて、それって、江戸時代の人が、一生のあいだに得る情報と同じくらいとも言われていて。

中川:ええ、そうなんですか。

斎藤:そうらしいんですよ。でも、人間は、5万年前ぐらいから進化してないんですよね。だから、その器に入りきらないぐらいの情報が、今の時代には溢れていて。だからこそ、余計な情報をシャットアウトして、ひとつのものと向き合う時間が大事になっていくと思うんですけど、この『息をひそめて』という作品は、まさにそういうふうに向き合って欲しい作品なんですよね。この作品と向き合う時間は、なるべく外の世界の情報を遮断して、スマートフォンもちょっと置いて、情報を制限した状態で味わって欲しい。夏帆さんもおっしゃっていましたけど、普段あまり意識することがなかったけど、自分の身の回りに大事にすべきものがすでにあるんだということが、この作品のテーマでもあるわけで。なので是非、情報を遮断して、作品そのものを味わっていただけたらなって思います。

夏帆:確かにこの作品は、情報とかではなく、五感で楽しめるような作品になっていて。それこそ私も、この作品を全部観て思ったんですけど、観終えたあとに、ちゃんと息を吸えるような気がしたというか、そういう感覚が観終わったときにあったんです。やっぱり、日々生きていくと、特に今みたいな状況って、日々いろんなことがあって、いつの間にか呼吸がどんどん浅くなっていくようなところがあると思うんです。でも、この作品を観ていると、川の流れだったりとか、そこに射し込む光だったりが、とても美しくて。そこで描かれている登場人物たちの心情も、良い意味で、ホントにささやかなものなんですけど、その人たちの葛藤や変化が、どこか自分と重ねられるというか、この作品を観ていて、自分もひとりじゃないんだなということに気づけたところがあって。それをみなさんにも感じてもらいたいなって思います。

――奇しくも状況は、本作を撮影していた頃とさほど変わっていないというか、過去の話ではなく、現在進行形の話として観ることもできるわけですもんね。

夏帆:そうなんですよ。今、現在進行形の話でもあるっていう。演者やスタッフは、もちろんその渦中で撮っている作品ではあったんですけど、それを観てくださる人たちも同じというか、「こういうことがあったよね」って回顧するような作品にはならなかったから。

中川:それは、すごく珍しいことかもしれないですよね。

夏帆:そう思います。そうやって現在進行形である今だからこそ、是非観て感じてもらいたい作品になったなって思います。

中川:やっぱり、この『息をひそめて』という作品は、この時期だからこそ生まれた作品であって。だからこそ、今観ていただくことに、非常に意味のある作品になったと思うんです。日本中というか、世界中がホントに息をひそめて過ごした一年が。それは現在進行形というか、まだ終わってないことではありますけど、そうやって息をひそめて過ごしている日々の中にも、美しいものや美しい瞬間みたいなものが必ずあると思っていて。それがこの作品の大切な部分だと思うので、それを感じてもらえたら嬉しいです。

■配信情報
Huluオリジナル『息をひそめて』(全8話)
Huluにて、4月23日(金)一挙独占配信
監督:中川龍太郎
脚本:中川龍太郎、高田亮

<各話タイトル・出演>
第1話「人も場所も全ては無くなる」 夏帆、斎藤工
第2話「帰りたい場所が、ずっとなかった」 石井杏奈、萩原利久、長澤樹
第3話「君が去って、世界は様変わりした」 村上虹郎、安達祐実、横田真悠
第4話「この町のことが好きじゃなかった」 蒔田彩珠、光石研
第5話「たまに遠く感じる、君のことが」三浦貴大、瀧内公美
第6話「あなたの速さについていけないことがある」瀧内公美、三浦貴大
第7話「誰のために歌うの?」小川未祐、斎藤工
第8話「この窓から見える景色が、僕の世界だ」 斎藤工、夏帆

音楽:haruka nakamura
撮影監督:上野千蔵
エグゼクティブプロデューサー:長澤一史(HJホールディングス)
チーフプロデューサー:茶ノ前香(HJホールディングス)
プロデューサー:中村好佑(HJホールディングス)
プロデューサー:佐野大(SPOON)
制作プロダクション:SPOON
製作著作:HJホールディングス
公式サイト:https://www.hulu.jp/static/ikiwohisomete/

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