『それでも俺は、妻としたい』Pが語る舞台裏 風間俊介×MEGUMIのキャスティング秘話も

『それでも俺は、妻としたい』制作裏に迫る

 テレビ大阪の「真夜中ドラマ」枠で放送されている連続ドラマ『それでも俺は、妻としたい』(以下、『それ妻』)は、売れない脚本家の夫・柳田豪太(風間俊介)が妻のチカ(MEGUMI)がセックスをさせてくれないことに対して悶々とする姿を描いたホームドラマだ。

 原作は映画『百円の恋』やNHK連続テレビ小説『ブギウギ』の脚本家として知られる足立紳の同名小説(新潮社新潮文庫刊)で、今回のドラマでは足立は脚本だけでなく監督も担当している。

 妻とのセックスレスの悩みを明け透けに書いた本書は、作者本人を夫のモデルとしたような主人公の私小説のような物語だが、そのドラマ版の原作・脚本・監督を本人が担当するというのは異例のことで、さらに撮影は足立の自宅で撮影したシーンも多かったという。

 今回、リアルサウンドではプロデューサーの山本博紀にインタビュー。テレビ大阪で『それ妻』をドラマ化することになった経緯や撮影の裏話、ドラマ化するにあたって気をつけたことなどを聞いた。

追い求めているのは“夫婦間のリアリティ”

――『それ妻』をドラマ化したきっかけについて教えてください。 

山本博紀(以下、山本):テレビ大阪の「真夜中ドラマ」というドラマ枠を担当しているのですが、『百円の恋』や『アンダードッグ』といった映画で足立さんと昔から仕事をされている東映ビデオの佐藤現プロデューサーから「足立さんの原作小説のドラマ化はどうですか?」と提案いただいたのがきっかけです。これまで小説をドラマ化したことはなかったのですが、『それ妻』を読んだらとても面白くて。夫婦の掛け合いがメインになるので、深夜ドラマの予算感としても収まりがいいと思ったので、是非ご一緒にとお願いしました。

――原作・監督・脚本を足立さんが担当していることには驚きました。

山本:当初から脚本は足立さんにお願いする予定でしたが、できれば監督もやりたいというご本人のお気持ちもありましたので、ぜひ監督も!とお願いしました。結果的には足立さんがメガホンを取ったことで、よりリアリティのある作品になったと想います。

――足立さんの自宅で撮影したシーンが結構あるそうですね。

山本:柳田家のシーンはすべて足立さんのご自宅で撮影させていただきました。撮影に使う期間は、ご家族には仮住まいに引っ越していただき、本当にご迷惑をおかけしました。

――監督の家で撮影するというケースは、あまり聞いたことがありません。

山本:生活空間の導線など、住んでる人だからこそわかることが多かったようですね。ハウススタジオでの撮影だと、演者の動きも含め、生活感のなさがにじみ出てしまうことがどうしてもあるのですが、今回に関してはそういうことがなかったので、ご自宅で撮影させていただき足立家の皆さんには本当に感謝しています。

――小説とドラマでは構成が変わっていますが、何か意識したことはありますか?

山本;やっぱり連続ドラマなので、2~3話で一件落着みたいな構成にはしたくなかったんです。全12話を通して、柳田家がどうなっていくのかというのを通して観ていただくモチベーションを大事にしたいので、小説のようにエピソードごとにきれいに区切るのではなく、12話を通して柳田家の日常や夫婦関係をしっかりと描きながら、その中で再現ドラマのプロデューサーやママ友たちとの物語が起きるという構成にして、じっくり観ていただけるストーリーにしました。

――同じ作者とはいえ、文字で構成された小説をドラマに映像に落とし込むという作業は難しいですよね。ドラマ向けに書き換える要素が多かったと思います。

山本:ドラマ化にあたっては、風間俊介さんとMEGUMIさんのダブル主演になったことが大きな変化ですね。男性、女性、未婚の方、既婚の方、いろんな立場の視聴者がいますので、多面的な見方ができた方がいい。豪太視点とチカ視点のどちら側から観ても楽しめる作品にしたいと、足立さんとは話しました。

――足立さんとやりとりしたことで印象的だったことはありますか?

山本:脚本を進めていく前の段階でいろいろと議論をさせていただいたのですが、「夫婦が煮詰まるくらいに向き合うリアリティに溢れる作品にしたい」と話されたことが印象に残っています。次話につながる要素として「こういうシーンを入れてほしい」「こんな展開があってもいいのでは」など提案をして監督にもいくつか汲み取っていただいたのですが、基本的には、あの夫婦がセックスをするかしないかという話日常をベースにして、「あの夫婦の在り方をいろんな人に考えてもらいたい」と話されていました。

――主演の風間俊介さんとMEGUMIさんのキャスティングはいつ頃決まったのでしょうか? 

山本:プロットが出来る前にはオファーしました。原作の豪太は情けなくてダメな男性ですが、みじめになりすぎると観ていられないドラマになる。チカは強い女性ですが、強すぎると観ていられないので、それぞれのいい塩梅を探りました。みじめすぎないところでいくと風間さんはドンピシャで、情けなさもまとったお芝居をしていただけそうだし、MEGUMIさんは思っていることをズバズバと言うイメージなので、チカのキャラクターと合っていて、狙っている塩梅にぴったりでいいんじゃないかと思い、オファーさせていただきました。

――足立監督自身が主人公のモデルですが、監督と風間さんは似ているのですか? 

山本:いやぁ……似てないですね(笑)。それは風間さんもおっしゃっていました。「監督と似てるところはないかもしれない」と。

――では、あくまで作品を考えての起用ということですか?

山本:そうですね。バラエティにも出演されているお二人のパブリックイメージから考えて、ちょうど合うんじゃないかと、監督とも意見が一致して。

――今はハラスメントの問題もあるので、キツイ言葉の裏側に愛情があるという表現が難しい世の中になりつつあると思うんですよね。表面上のやりとりの裏側に実は別の意味があるということを描くのが難しくなっている状況で、すごく勇気のある作品だと思いました。

山本:夫婦間であっても、言っていいことと悪いことがある中で、どこまで口にしていいのかについては、監督も含めた制作陣とも、風間さん、MEGUMIさんたち役者陣とも議論をしました。映像の一部分を切り取られた時に「えっこんなことを言ってしまうドラマなの? 役者に言わせてしまう作品ってどうなの?」と思われないか。逆にセックスレスで悩んでいる夫婦には共感してもらえる表現かもしれない。深夜ドラマなので攻めた作品にしようと監督とは話していましたが、変な切り取られ方をして誤解をされないように、いろんなシーンにおいて議論を重ねました。

――中年男性の性欲をこういう切り口で描いた作品もあるようでなかったと思います。不倫や風俗ではなく、妻のことは愛しているができないのでAVを観て一人でするというのは、中年男性の性としてリアルだけど、実はあまり触れられてこなかった部分だと思いました。

山本:不倫ドラマが溢れている中で、ここまで妻に拒否されても妻としたいんだっていうキャラクターはなかなかいないのでは、という新鮮さがありました。現在8~9話の編集中ですが(取材当時)、監督が「豪太って意外といいやつなんじゃない?」と冗談まじりに話していたのが面白くて。稼ぎはほとんどないけど、家事をして妻を抱きたいって、これっていい男なんじゃないかと(笑)。映像になったことで、夫婦の姿を客観的に見られるようなったのだと思います。

――不思議な距離感ですよね。それは映像にも表れていると思います。僕は豪太が息子の太郎くん(嶋田鉄太)を観ているシーンがすごく好きで、とても印象に残りました。監督としての足立さんはいかがですか?

山本:やりとりを一連で撮っていく監督で、空気感をとても大事にしています。夫婦間のリアリティを追い求めていることもあり、特に言い合いになるシーンは撮影をできるだけ区切ることなく「このシーンは最後まで行かせてください」とおっしゃっていることが多かったです。

――台詞のやりとりが大変なだけでなく、気持ちを持っていく負荷が大変ですよね。

山本:この夫婦になりきってお芝居するのは、風間さんMEGUMIさん、お二人とも精神的にかなりつらいことも多かったと思います。

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