我々は“事実”の映画化とどう向き合うべきか? 『TATAMI』が描く中東情勢の史実

映画『TATAMI』が描く中東情勢の史実

 2月28日から公開される映画『TATAMI』の冒頭は、イラン代表の女子柔道選手たちが遠征用バスで移動している場面だ。選手たちは皆、ヒジャブをかぶっている。主人公のレイラ・ホセイニは、ヒジャブの上にヘッドフォンをかぶせてラップ・ミュージックを聴く。バスが走るのは、ジョージアの首都トビリシの街。遠くに団地住宅群や工場らしきものが見えているが、やがて近代的な街並みが広がり、大会の会場に到着する。

 レイラは、国内ではトップの選手である。まだ国際大会でメダルを取るほどの実績はないものの、今大会では、立て続けの一本勝ちで勝ち進む。だが一本の電話で状況が変わる。それは、代表コーチであるガンバリへの柔道協会会長からの電話だ。怪我を理由に棄権せよ。

 イランの政府当局は「占領政権」であるイスラエルの選手と試合をすることを禁じている。今大会では、同じ階級の別ブロックでイスラエルの選手も勝ち進んでいたのだ。イランの協会の意向は、政権の意向である。それを受けたガンバリは、レイラに棄権を命じる。ただレイラは、試合に出場を続ける。コーチやチームメイトとは距離を置くことになる。

 映画はどこからかサスペンスに切り替わっていく。印象的なシーンがある。試合後、ファンを装った男がスマホでツーショット写真を撮ろうと近づいてくる。油断していたレイラは、その男の画面に映った何かにショックを受ける。男は、会場に紛れ込んでいる大使館員だった。政府当局が本気なのだとわかる場面だ。国家の監視は、大会以前から始まっていた。自国の家族の安全も危うい。

 本作は、政府の圧力に立ち向かう何人かの個人の話だ。レイラ、ガンバリ、もう1人は、大会を運営する組織の女性職員だ。政府が選手に圧力をかけて棄権を強いるのは、大会の規定違反。とはいえ運営組織が一国の政府と対等ではない。彼女がどう対処して、レイラを苦境から救うのか。そこが最大の見せ所かもしれない。

 本作は、明確にある出来事をモデルにしている。とはいえ、筆者はその背景を知らずに映画を観た。後で調べて驚いた。映画ではジョージアで開かれた国際大会が舞台に置き換わっているが、モデルとなった出来事は日本で起きている。

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