『ホットスポット』の笑いの中にある極めて現代的な問題 角田晃広がバカリズムの具現者に

『ホットスポット』の中にある現代的な問題

 バカリズム脚本作『ホットスポット』(日本テレビ系)が後半戦に入り、ぐっと動き出してきた。当初は、富士山麓の架空の町・富士浅田市に宇宙人・高橋(角田晃広)がひっそりと、地球人に混じって平和に暮らしているという、シュールでほのぼのした話だった。それがここへ来て、未来人(小日向文世)が現れて……。「SF史上かつてない小スペクタクル」と公式では謳っているが、ここから、ゴジラ対キングコングならぬ宇宙人対未来人という大スペクタクルに突入するのだろうか。

 これまでのストーリーをざっくり振り返ろう。舞台は風光明媚な山梨県富士浅田市。そこに建つこじんまりしたビジネスホテル・レイクホテル浅ノ湖で、41歳、シングルマザーの遠藤清美(市川実日子)は働いている。支配人・奥田(田中直樹)、後輩の由美(夏帆)、同僚のえり(坂井真紀)、先輩の高橋とはおおむねうまくやっている。休みの日は仲良しのみなぷー(平岩紙)とはっち(鈴木杏)とおしゃべりを楽しむ。そんな平穏な日々に、突然、事件が……。ある日、清美は仕事帰り、車に轢かれそうになるが、高橋に助けられる。ごくふつうの中年に見えた高橋は、宇宙人だったのだ。

 宇宙人と地球人のハーフで、特殊能力を持つ高橋は、10円玉を曲げることができるパワーや、交通事故から清美を救った跳躍力や走行能力がある。清美はつい、その秘密をみなぷーとはっちに話してしまう。こうして清美たちは、なにかと高橋の能力を頼り、ささやかな日常の困りごとを解決していく。やがて、高橋の秘密は、支配人、由美、由美の友人(志田未来)とじわじわと広がっていき、東京から取材に来たテレビ番組『月曜から夜更かし』のディレクター岸本(池松壮亮)にも目をつけられて……。

 この展開に、サスペンス性や深刻さはいっさい排除されている。徹底してほのぼのコント仕立てで見せるのがバカリズム流だ。例えば、はっちの勤める小学校の体育館の天井にはさまってしまったバレーボールを高橋が取り除くハメになるエピソード。体育館の高い天井に打ち損じたボールがはさまるのはあるあるで、はっちが挟まったボールを取ろうとして、逆にいくつもボールを挟んでしまいどツボにはまる。そこで高橋の出番である。清美たちはかなり浅はかな発想で高橋に、夜中、体育館に忍び込んでボール取ってほしいと頼むのだが、彼は極めて慎重で、彼女たちの適当さをひとつひとつたしなめながら、それでも投げださず、頼みを聞いてしまう、お人よしである。

 自分のことを知られたくないと気を使っていながら、人助けを断れないため、どんどん秘密が広まっていく。身の危険を押して人助けする宇宙人・高橋を、視聴者の誰もが好きにならずにはいられない。むしろ、年がら年中集まってはよもやま話をして、他人の秘密を悪気なく共有してしまうコミュニティの特性を一身に背負っている清美たちのほうにこそ、いささか疑問を感じるほどだ。

 そうはいっても、清美は清美で、それなりに正義感があり、ホテルでテレビを盗もうとした同僚・中本(野呂佳代)を見過ごすことはできない。その中本も悪気はなさそうで、中本と再会したとき、皮肉にも『キャッツアイ』の主題歌をカラオケで歌っている。どうやらこの町には完全なる悪は存在しないようなのだ。完全な悪はいないし、高橋もスーパーマンではない。パワーは地球人よりあるが、その力を使うとたちまち副作用が起きて、体力が落ちる弱点がある。ウルトラマンが3分しか戦えないようなものであろうか。それをホテルの温泉でチャージする。ゆるい世界に見えて、設定はきめ細かい(高橋の趣味がガンプラなのも良いし、50年前、実際に山梨であった富士UFO事件を思わせる建付けも良い)。

 岸本が高橋の秘密に迫ってきたとき、真っ先にしゃべってしまいそうな心配があったのは、都市伝説好きな由美であった。だが、彼女は高橋をさりげなく庇う。そこに視聴者はホッとしたはずだ。この町には完全な悪者はいないし、むしろ、内部で多少ごたごたしたとしても、対・外部には俄然結束して立ち向かうコミュニティの強さが発揮されるようだ。これぞコミュニティあるある。登場人物たちのとめどないおしゃべりのおもしろさのみならず、彼女たちのおしゃべりの外側を覆っている透明な社会という壁をかすかに感じさせるところがバカリズムのシニカルなセンスであろう。執拗に追う岸本に、高橋がとった行動も、善意ではあるが、そこにこれ以上は介入するなという厳密さがあった。

 ふんわりしたお菓子にぴりっと山椒が隠し味に使用されているような、バカリズムの描く世界。彼のドラマが評価されたきっかけである『架空OL日記』(読売テレビ・日本テレビ系)はその最たるものだ。バカリズムがOLになりすまして書いていたブログが原作で、バカリズムがOLとして主演も務めた。彼の描くOLの日常にはリアリティがあり、共感性が高いにもかかわらず、男性が女性たちに混じって演じていることで、完全に世界に没入させない客観性と奇妙な違和感(いわゆる異化効果)。『ホットスポット』では、男性が演じるOLに代わるのが宇宙人・高橋である。傑作との誉も高い『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)で、タイムリープという壮大な仕掛けを用いたバカリズムが、今回、引き続き、SF的要素を用いて、日常に宇宙人や未来人を登場させることで、現実を違う角度から写し出す。

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