『私の家政夫ナギサさん』は日本版『マイ・インターン』? 相原メイが置かれた板挟みの状況

『わたナギ』は日本版『マイ・インターン』?

 火曜ドラマ『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)に癒されるという人が続出している。製薬会社のMR職でバリキャリの主人公・相原メイ(多部未華子)にとってのスーパー家政夫ナギサさん(大森南明)のような存在に羨ましいという声も多方面から聞かれる。

 28歳、社会人6年目、正に若手とは言え、「新人」では決してないミドル層に位置するメイ。営業成績は入社3年目から1位をキープしており、リーダー職も務め、さらに異動に伴いマネージャー的ポジションだった副支店長も不在に。中堅メンバーも突然育休に入ってしまい、the若手営業チームメンバー4名を率いる。メンバー4名のうち半分が男性で、1人は新入社員の瀬川(眞栄田郷敦)、もう1人は自分より年上の堀江(岡部大)。

 筆者も正に同じような立場を経験したことがあるが、言いたくないことも言わねばならず、年上男性部下のミスの謝罪も時には代理でする。頼りたい相手に頼れない辛さ。「プレイングマネージャー」とは本当に苦しい役回りで、メンバーと同じように目標を付与され、個人目標の達成は必達、その上で各メンバーの営業同行なども担当し、チーム全体の目標達成も追いかけなければならない、正に「背中で見せる」必要のあるポジション。自分だって達成するのに精一杯なのに、メンバーのことを鼓舞しながらその声がけがまた自分へのプレッシャーになり、自分自身の首を絞めるようなことだって往々にしてある。メイのチームコンディションは良さそうだが、彼女もメンバーに対して色々な言葉を飲み込み向き合っているのだと思う。もちろん仕事のやり甲斐はあるし、達成すれば気持ちいい。でも、「すり減らす」日だってある。ふと振り返ると自分だけが走っていて、誰もいない、誰もついてきてくれていない、なんてことに気づく日だってあるだろう。「何で私ばっかり……?」そう思うのを禁じ得ない瞬間もある(副支店長と中堅社員が抜けたのにも関わらず補填人事がなされないことに対しても、もしかしたら内心何かしら会社に対して思っていることもあるかもしれない)。

 そんなメイにとって、恋愛感情起点ではなく、自身の頑張りを近くで見てくれている存在がいることはこの上ない幸福だろう。あくまで評価したりされたりする関係ではなく、ただ近くで見守ってくれている、仕事上の利害関係のない相手がいること(家事代行サービスの受け手と供給側という立場ではあるものの、メイにとっての仕事上の利害関係は一切存在しない)。しかも、その人は「できることだけじゃなくできないこと」も見てくれようとする、おそらくメイにとっては初めての存在。やり甲斐のある仕事もあり、人間関係上のトラブルもなく恵まれているかに見えるメイの職場環境、ポジションだが、それはひとえに彼女がこれまで会社に対して絶え間ない圧倒的な「貢献」をし続けてきたからこその「信頼貯金」の賜物だ。組織内での自分の居心地の良さは、自身の貢献によって獲得していくものだという感覚がきっと経験上、また家庭環境からも染み付いているであろうメイにとって、何の貢献もなしに、自分のことを全肯定してくれるナギサさんの存在がどれだけ精神衛生上ありがたいことか。

 その上、ナギサさんは非常に高い家事スキルにホスピタリティーまで持ち合わせている。つまり「家事は女性がするもの」「仕事だけでなく家事までやって初めて一人前」というようないまだに根強く残る固定概念をナギサさんは一切持ち合わせてないとも言える。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる