高橋克実が『べらぼう』で立ち上げる父親像　横浜流星との“対照さ”が存在感を生む

　「大河ドラマ」といえば、若手からベテランまでの名だたる演技者たちが各作品ごとに勢揃いし、築き上げて繋いできたひとつの文化だ。放送中の『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』（NHK総合、以下『べらぼう』）もそんな作品の系譜に連なるもの。主演の横浜流星を筆頭に、輝く個性を持った硬軟自在な俳優たちによって成立している作品である。いまのところとくに目立っているのが、物語の冒頭からその中心に立ち続けてきた高橋克実。演じているのは主人公の育ての親である駿河屋市右衛門だ。

　本作は、吉原の貧しい庶民の子に生まれた蔦重こと蔦屋重三郎（横浜流星）が、“江戸の出版王”に成り上がっていくさまを描き出すものである。これから本格的に波乱万丈な人生を歩んでいくことになる彼は、“本”というメディアを利用し、吉原の地を盛り上げようと奮闘しているところ。そんな、両親に捨てられた幼き日の蔦重を養子にして育て上げたのが、駿河屋市右衛門なのだ。吉原において客に女郎を紹介する案内所・駿河屋の主であり、蔦重の才覚をいち早く見抜いている者のひとりである。

　これまでの「大河ドラマ」と同様に、『べらぼう』もまた年齢を問わずさまざまな演技者たちに支えられている作品だ。“合戦”や“殺陣”などといった一般的にイメージされる時代劇らしい要素は薄いかもしれないが、そのユニークな発想を武器に、社会を、そして時代を変えようと駆け回る蔦重の姿には胸を熱くさせられるものがある。そんな物語の一端を担っているのが、高橋が演じる駿河屋市右衛門なのだ。

　ドラマのスタート時から、高橋はつねに渋いパフォーマンスに徹してきた。本作における彼は、絶えず渋面を浮かべている。作品によっては人好きのする役どころも数多く演じてきた高橋が本作で発する声の調子はその表情と同様に低く重く、厳格なキャラクター像を立ち上げている（しかもかなり暴力的である）。横浜が体現する蔦重の快活さとは対照的だ。自由な想像力と高い行動力を持つ蔦重にとって、もっとも身近な“壁”のような存在であり、この市右衛門が厳しく屹立し続けることが『べらぼう』の世界における蔦重の人物像に大きな影響を与えている。