『梨泰院クラス』が迷える人々に送る名台詞の数々 “自分の人生を生きる”というテーマを読む

『梨泰院クラス』が迷える人々に送る名台詞の数々 “自分の人生を生きる”というテーマを読む

「寝る前によく考えることは?」
「ちょっとヤバくて。変に思われるかも。地球が……滅びればいいのにって」

 そんな物騒な会話から始まる『梨泰院クラス』(Netflix)が、最高に「サイダー」だ。「サイダー」とは、韓国でスカッとする展開を差す言葉。サイダーを飲んだときの爽快感とかけて、そうした言い回しが定着している。

 一方、もどかしくてモヤモヤする展開を「コグマ」という。コグマとはさつまいものこと。さつまいもを水を飲まずに口に入れるとパサパサで飲み込みにくい様子から「このドラマの展開、超コグマ!」と使われるのだそうだ。そう『梨泰院クラス』は、超コグマと超サイダーの連続。そして、その苛立ちと痛快さは、今のこの混乱の時期だからこそ、より強く感じることができるのではないか。

 現代に生きる私たちは、様々なものが整っている。便利な生活を享受できる一方で、すでに決められたレールのようなものを感じずにはいられない。強者は常に勝ち続け、弱者は逆転のチャンスなんてそうそうない。だが今まさに「地球が滅びる」レベルの脅威が目の前に立ちはだかり、私たちは改めて考えさせられた。人生は最初から決まってなんかいないし、自分の手で掴むものだということを。

 では、レールに頼らずどう生きていけばいいのか。そんな迷える人々に、この作品は印象的な台詞と共に問いかける。自分が本当に求める幸せとは何か。それを手にするために努力する覚悟はあるのか、と。そこで数多くある名台詞の中でも、特に筆者の心を打った場面を振り返りたい。

「酒の味は?」「甘いよ」


 『梨泰院クラス』のメインストーリーは、正義感の強い高校生パク・セロイ(パク・ソジュン)の15年にも及ぶビジネス復讐劇だ。転校先で出会った国内最大手外食企業・チャンガグループの御曹司グンウォン(アン・ボヒョン)のイジメを諌めたのをきっかけに、その父であるチャン会長(ユ・ジェミョン)との確執が生まれる。「土下座をすれば許してやる」と言われても、自分の信念を曲げることができないセロイ。チャンガグループに長年勤めていた父はそんな息子を「私の子と思えないほど、カッコいいです」と言い、責任を取る形で会社を後にするのだった。

 その夜、初めて酒を酌み交わしながら出てきた台詞が「酒の味は?」だ。「甘い」と答えたセロイに「今日が衝撃的な1日だった証拠だ」と笑う。生き方次第で、味は変わる。生きることは食べること。その食が美味しくなくなる生き方をしてはいけない。食を扱う仕事をしてきた父だからこそ、その言葉により重みを感じる。「信念を貫け」とは言うものの、強大な力を持つ者の前ではなかなかそうはできないのが現実だ。だが、このセロイの父が取った一貫した言動に目頭が熱くなった。私たちは、何のために生きるのか。その最もシンプルな答えは「大切な人と酌み交わす酒が甘くなるように」なのかもしれない。

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