『名探偵コナン 純黒の悪夢』がシリーズの転換点となった理由 “2つの要因”から紐解く
長く続けられているシリーズには、常に“ターニングポイント”となる作品が存在している。日本のアニメ映画シリーズでいえば、声優を総入れ替えしてシリーズ1作目をリメイクした『映画ドラえもん のび太の恐竜2006』であったり、「ポケモンGO」の流行によってオリジナル世代に回帰する作品づくりをしたことで、低迷していた興行成績を回復することに成功した『劇場版 ポケットモンスター キミにきめた!』がその典型的な例といえよう。そして『名探偵コナン』シリーズにおいて、その“ターニングポイント”となった作品は『純黒の悪夢』と考えて間違いないだろう。
劇場版シリーズの20作目の節目として制作された本作は、前年に公開された『業火の向日葵』から一気に興行収入を20億近く上乗せするという大ブーストをきめた。監督が静野孔文に変わって以降、興行収入は常に右肩上がりとなっていたわけだが、この間の上げ幅は尋常ではない(もっとも、その後21作目から22作目にかけてそれ以上の上げ幅を見せることになるが、これは追って公開された4DX版の上乗せが大きく作用しているのだろう)。なぜこれほどまで華麗なジャンプアップを遂げたのか、そして『名探偵コナン』が邦画興行の中心的存在というイメージを定着させることができたのか。この『純黒の悪夢』の見どころとともに改めて紐解いていきたい。
その最大の要因となったのは、作品全体のテイストの変化というよりも、それを超越した“ジャンル”の変化にあったのではないだろうか。これまでも、劇場版シリーズではテレビシリーズと比較してスケールの大きい事件が描かれ続けてきた。しかしこの『純黒の悪夢』では、そういった従来のサスペンスとミステリーを軸にした“謎解き”中心の作風から一転し、明確に“アクション”という見せ場に重きを置いた上で、そこにサスペンスとミステリーを絡ませていくというエンターテインメント作品へと変貌したのである。
それは冒頭から繰り広げられるド派手なカーチェイスシーンから一目瞭然だ。同じようにカーチェイスから幕を開ける作品としては、過去にも『紺碧の棺』があったわけだが、その見せ方は格段に進化していることがわかる。その一方で、テレビシリーズでは変わらずに“謎解き”要素をメインに据えたまま。そうすることで、劇場版がテレビシリーズの単なる延長線上にあるものではなく、独立したものであると示すことができる。ゆえに、年に一度の劇場版という一種の“お祭り感”を高めると同時に、普段テレビシリーズを観ていない層を集客することを可能にしたのだ。
ファン層の拡大という点においては、登場キャラクターにも顕在化している。『純黒の悪夢』では前述の通り“謎解き”ミステリーではなく、コナンと黒の組織との因縁が物語の大きなポイントとなってサスペンスフルな展開を生み出している。この“黒の組織”、これまで劇場版では5作目の『天国へのカウントダウン』と13作目の『漆黒の追跡者』と、節目になる作品でここぞとばかりに登場するわけだが、今回はそれにFBIの赤井秀一や公安警察の安室透といった人気キャラクターも絡み合っていく。言わずもがなこの『名探偵コナン』を語る上で重要な存在である黒の組織との物語が展開することで、初期のみを知っている層や設定だけ知っている層にも複雑な人間関係がすんなりと受容できる下地が整い、また人気キャラクターの登場によってファンの期待に応える作品づくりができる。公開当時のレビュー(映画『名探偵コナン』シリーズ、なぜ人気上昇? コアな映画ファンの立場から読み解く)でも触れた通り、タイミングを逃すとどこから入ればいいのか難しいという長寿シリーズの問題点を解決するには絶好の作品に仕上がっているというわけだ。