奇跡のキャスティングと映像美が紡ぐ 唯一無二の身体の物語『Girl/ガール』の繊細な表現

『Girl/ガール』の繊細な表現

 本作は、ルーカス・ドン監督自身に起きたジェンダーに対する幼い頃の混乱の記憶が投射されているという。彼は周囲の期待に迎合するため、自身の「女性らしさ」を封印し、「男性らしさ」と共に生きることを選んだ。そんな彼にとって、自らの望む性別で生きようとする揺らがない精神を持つララ(そして、ララのモデルとなったノラ・モンセクール)は、憧憬の対象以外のなにものでもない。かつての監督のように、ジェンダーという隘路に迷い込んでしまった経験を持つ人は、決して少なくないだろう。まるで綺羅星を見るかのように向けられたララに対する監督の憧憬のまなざしと同化するようにして、私たちにもまたララが眩しく映る。

 光を全身から放ちながら、彼女は休むことなく妄執的に踊り続ける。意図的にピルエットが繰り返される振り付けによって、何度も何度もまわり続ける。まわるというのは、ただひたすらその場で動作を繰り返すことでしかなく、前に進むことでも、どこかへと移動することでもない。望む女性の身体へトランジションしていくことなく、男性のまま止まってしまった身体で在り続けることは、彼女にとってその場でまわり続けることと同然なのかもしれない。そしてそんな彼女のもどかしく先走る感情が、ついには悲劇を招いてしまう。しかし、その悲劇を超えた先の彼女の清々しい顔を見れば、それが彼女にとって必要な悲劇であったことにもまた気が付く。

 クライマックスに向けて、ララの舞踊は激しさを増す。終盤のリハーサルのシーンでは、舞台上でララを照らす青の光のなかに、橙の光が入り混じって映し出される。それは炎の表象に違いない。彼女の望む身体と踊ることへの渇望が、燃ゆる炎となってスクリーンに焼き付いている。そんな熱い幻視に魅せられたなら、ララの行く先の幸福をきっと願わずにはいられなくなる。

■児玉美月
大学院ではトランスジェンダー映画についての修士論文を執筆。好きな監督はグザヴィエ・ドラン、ペドロ・アルモドバル、フランソワ・オゾンなど。Twitter

■公開情報
『Girl/ガール』
新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほかにて公開中
監督・脚本:ルーカス・ドン
出演:ビクトール・ポルスター、アリエ・ワルトアルテ
振付師:シディ・ラルビ・シェルカウイ
配給:クロックワークス、STAR CHANNEL MOVIES
提供:クロックワークス、東北新社、テレビ東京
後援:ベルギー大使館
2018/ベルギー/105分/フランス語・フラマン語/原題:Girl/PG12
(c)Menuet 2018
公式サイト:http://girl-movie.com/

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