ルーカス・ドン監督が語る、賛否両論の『Girl/ガール』に込めた思い 「つながりを感じてほしい」
第71回カンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)を受賞し、第91回アカデミー賞外国語映画賞ベルギー代表にも選出された映画『Girl/ガール』が7月6日に公開された。バレリーナを夢見る15歳のトランスジェンダーの少女ララが、全力で支えてくれる父のため、そして自身の夢のために大きな決断を下す模様を描く本作。500人を超える候補者の中から選ばれた、アントワープ・ロイヤル・バレエ・スクールに通う現役のトップダンサー、ビクトール・ポルスターが主人公のララを演じた。
今回リアルサウンド映画部では、長編デビュー作ながらカンヌ映画祭、ゴールデングローブ賞、アカデミー賞と数々の映画祭・賞レースで話題をさらったルーカス・ドン監督にインタビュー。作品に込めた思いや特徴的なカメラワークなどを中心に、トランスジェンダーの役をシスジェンダーの俳優が演じて批判を浴びた件についても話を聞いた。
「とにかくララについての物語にしたかった」
ーー自分の望む自分になろうと葛藤するララの姿には、自分を変えたいと願う誰しもが共感できるのではないかと思いました。
ルーカス・ドン(以下、ドン):ありがとう。それは最上級の褒め言葉だね。僕自身もまさにそのとおりだと思っているんだ。もちろん描いているキャラクターは“個”ではあるんだけど、監督として観客に一番望んでいることは、描いているテーマについて、何か普遍的な形で触れてほしいということ。ララはトランスジェンダーのキャラクターではあるけれど、もちろんそうではない人にもこの映画をとおして何かしらを感じ取ってほしい。登場するキャラクターと自分との違いや、彼/彼女たちがいかにユニークかではなくて、キャラクターとどこが同じなのか、つながりを感じ取ってもらうことができれば、それは監督としての大きな喜びだね。この作品は、アイデンティティを持つ人が変わろうとする側面と、アイデンティティを持つ人が演じる側面を描いているんだ。僕たちは時に、自分が作り上げた、もしくは社会から押し付けられたイメージを追求してしまうことがある。そのイメージをどこまで追求したらいいのか、もしくはするものなのか……。そういうことをテーマにしているから、ジェンダーや年齢、セクシュアリティなど関係なく、普遍的に多くの人に伝わることを願っているよ。
ーーLGBTQなどのセクシュアル・マイノリティをテーマにした映画では、主人公と家族が対立する姿を目にすることが多いですが、この作品では父マティアスがララのセクシュアリティについて非常に寛容的だったのが印象深かったです。
ドン:この作品は、とにかくララについての物語にしたかったんだ。だから、“自分はこういう人間なんだ”ということを家族に説得しなければいけない時期が過ぎた段階から物語を始めることにして、冒頭から、多くの登場人物は彼女のやろうとしていることを応援している。そうしないと、彼女自身の物語に集中できないと考えたんだ。そうすることによって、バレリーナという、ある種究極の女性らしさのイメージを追求しようと葛藤しているララの物語にしっかりと目を向けることができるんじゃないかとね。それと君が言うように、子供のアイデンティティを受け入れられない親と子供が葛藤する姿は映画の中でもよく目にするから、逆にそうではないものを観たいという必要性も感じていたよ。マティアスはララに対して無条件の愛を持っていて、彼女のことをあるがまま受け入れているから、彼女のアイデンティティを問うこともない。もしマティアスが彼女について何か問うことがあれば、それはララ自身の幸せについてだね。実は、ララのモデルでもあり、僕がこの映画を撮るきっかけとなった新聞記事に書かれていたトランスジェンダーの少女ノラ(・モンセクール)のお父さんも、自分の娘を完全に応援している、無条件の愛を持った人だったんだ。だから、マティアスはある意味、彼へのオマージュでもあるんだ。
ーー『Girl/ガール』という作品のタイトルは、シンプルながらもいろいろな捉え方ができますね。
ドン:僕にとっても多層的な意味を持つタイトルだね。ステートメントでもあり、この作品が最初から最後まで少女の物語であることも意味しているし、ララが全てのティーンエイジャーの女の子と同じだという意味でもある。それに、トランスガールではなくガールとして見られたいララの気持ちを代弁してもいるね。僕自身も、美しさと刺さるところの両方がある、素晴らしいタイトルだと思うよ。