『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』“孤独な女の王”としての2人の生き方 現代にも通ずる物語に

『ふたりの女王』“孤独な女の王”としての生き方

舞台は16世紀の王朝だが、現代社会にも通ずるストーリー

 0歳でスコットランド女王、16歳でフランス王妃となったメアリー・スチュアートは、未亡人となった18歳にスコットランドへ帰国し王位に戻る。

 しかし当時のスコットランドは、隣国イングランドの女王エリザベス1世の強い影響下にあった。メアリーはイングランドの王位継承権を主張し、エリザベスの権力を脅かす。従姉妹でもあるふたりの女王は、それぞれ陰謀渦巻く宮廷の中で運命に翻弄されていく……。

 シアーシャ・ローナンがメアリーを、マーゴット・ロビーがエリザベス1世を演じた『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』の大まかなストーリーはこの通りであるが、この作品は単なる歴史映画ではない。ありとあらゆる謀略や悪意の中で、「無垢なままではいられない女性たち」の変化と成長、そして対決の物語なのである。

メアリーとエリザベス、それぞれの生き方

 イングランドの女王であるエリザベスは、本作中では描かれていなかったが数多の修羅場を潜り抜けてきた女性である。

 父王・ヘンリー8世に実の母であるアン・ブーリンを処刑され庶子として育ち、即位前には前イングランド女王で腹違いの姉によりプロテスタントだということでロンドン塔へ幽閉されていた。そのために彼女は、ロンドン塔から生きて帰還した唯一の王公貴族とも呼ばれている。女王として即位したのは27歳の時で、この頃までには既に内密に子どもも産んでいたという。

 そして即位してからは政治を動かす周囲の男性貴族たちとも対等に語り合い、男妾を侍らせる。男よりもキャリアを優先する女性であった、といえよう。

 一方の本作の主人公であるスコットランドのメアリーは、産まれた瞬間から女王でありキリスト教の伝統ある宗派であるカトリックの信者だ。本作では彼女がフランスからスコットランドに帰国する、18歳の頃から物語はスタートする。

 まだうら若き少女のような彼女は、王位を狙う異母兄の思惑も知らずに兄による帰国の歓迎を素直に喜び、自分こそ正統なる女王であるということから側近である男性貴族たちを信頼し、そして新しい恋愛や次なる結婚に夢を抱いている。エリザベスとは異なり、恋と仕事の両方を手にした女性である、といえるだろう。

 母を処刑され自らも処刑寸前だったという、死を目の当たりにしてきたきたエリザベスとは違って、無邪気過ぎるとも言えようメアリー。彼女は王位というものが死といかに身近であるかということをまだ知らなかったのだ。自分が王となれば、その地位を狙い陰謀や暗殺を企てる者たちが必ず現れる。

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