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菊地成孔の映画関税撤廃 第6回

菊地成孔の『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』評:ミレニアム・ファルコンに乗り遅れた者共よ萌えているか?

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乗り遅れた船 / 残されたインポテンツ

 筆者はミレニアム・ファルコン乗り遅れ組だ。同様の、同世代の男性(女性差別ではない。当時の話である。当時、クリーチャーやガジェットがたくさん出てくるスペースオペラというのは、基本的には女性が観るものではなかった)は多数いると思う。なんとか途中乗車しようとして、やはり乗り切れなかった者も、思いがけない駅で綺麗に乗れた者も。

 いかなネット上とはいえ、批評の誌面に於いて、個人的な回想を素材にするのは私的な倫理に反するのだが、今回ばかりは一般性が高いと判断し、そのまま続けさせて頂くことをどうかご了承いただきたい。ハードSFもスペースオペラも当然のように愛好していた13歳の中学生(現在55歳)にとって、キネマ旬報に、「宇宙戦争」という逐語訳のタイトルで小さい写真が紹介され(アメリカの公開より1年遅れたことと関係があったと推測される)、心臓が止まるかのような衝撃を受けた。

 これが後の『スター・ウォーズ』第1作と筆者の邂逅の瞬間である(これがエピソード4で、「新たなる希望」というサブタイが付いていることを、本稿を書き始めて知った。筆者はその程度の人物だと、先ず最初にご理解いただきたい。「まあ、そのぐらいの人もいますよ」と余裕をかましている読者も、「C-3POとR2-D2がどっちだか今回、資料を見て初めて知った」と言えば「ええ何? それで語るの?」と表情も険しくなろうというものだろう)。現在と違い、夢の膨らみ方には上限がなかった。おそらく、今まで観たこともない絵が数時間続く。それは正気が保てるかどうか心配になるほどだった。

 更に個人的な話を続ける事も併せて御了承いただきたい。筆者の実兄は菊地秀行という小説家なのだが、氏の作風や文壇でのポジションといった話はすべて割愛し、氏が、当時日本でも傑出していたSFのビジュアルマグ『宇宙船』の常連執筆者だった関係から、「1年遅れでやってくるSW」の話題は、野田元帥をはじめとしたSWアジテーター達の狂愛によって、女性読者がいるのも承知で書くが、一読者として精巣がパンパンになっていた(「中学生」であることの強調です念のため・笑)。

 ところが、精巣も妄想もパンパンになっていたのが悪いのか、ルーカスが悪いのか、レイア姫のコスチュームの微妙なエロ具合が悪いのか、単に体調が悪かったのか、あるいは毎度おなじみフロイトが悪いのか(過度の期待は、脳内ですでに「観てしまって」いることと似ていて、つまりヒステリックな自盲を引き起こして実際の対象が見えなくなる)、筆者は、女性読者がいるのも承知で書くが、全くピクリとも勃たなかった。「インポテンツ」という言葉は意味も知っているつもりだったが、身をもって実感したのはあの時が初めてだったと思う。

治したい、いや、受け入れ難い、といった方が良い。インポテンツは(中学生当時、という意味だからね。念のため)

 数々のトルーパーやドロイドが画面を往来し、ルークが青いプロテインを飲んでも、ダース・ベイダーのスーハーを聞いても、幾多のタイ・ファイターを交わして、ミレニアム・ファルコンがデス・スターを爆破させても、脳内に「いかん、これは病的な不感症だ。何度か観れば、だんだん勃つに違いない。友達には誰も言えない」と、性的なインポテンツの主観と全く同じ状態が訪れるだけだった筆者は、焦燥感とともに何度も映画館に足を運んだ(地元の映画館だったので、料金は取られなかった。拙著『ユングのサウンドトラック~菊地成孔の映画と映画音楽の本』参照のほど)。

 『帝国の逆襲』『ジェダイの復讐(当時の公開名。現在は逐語訳「帰還」に改題)』と観すすめ、かのイウォークにもヨーダにも、現在に至るまで、宇宙空間や惑星のVFXと並び、SWシリーズの基本的景観のひとつとなっている「雪上や氷上の戦闘」シーン(因みに筆者は、『機動戦士ガンダム サンダーボルト』2ndシーズンの、氷結海での戦闘シーンのための音楽「氷上の敗走」の参考に、『ウルトラセブン』の冬木透のスコアと、『ジェダイの逆襲』のジョン・ウィリアムズのスコアを分析、参照している)まで観ても、もう勃たないものは勃たない。という有様で、SWサーガの不感症(他のものなら何でも勃つのである。マーヴェルでも何でも。これも性的不感症と似ている)を受け入れざるをえなくなった筆者は、『ファントム・メナス』からの前日譚三部作、『フォースの覚醒』からの後日譚三部作は未見で、何かの勢いでスピンオフのアンソロジー・シリーズ『ローグ・ワン』を観て、女性読者がいるのも承知で書くが些少ながらの半勃ちになり、『ハン・ソロ』の予告編を見るだに、何やら不感症が治る予感がして、劇場に足を運んだのだった(因みに二回。二回目は、当連載で採り上げることが決定したため)。

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