フジテレビ、春ドラマの“視聴率で計れない勝者”に チャレンジ精神と丹念な仕事で高評価
主な春ドラマが終了した今、すべての作品を振り返って考えたとき、真っ先に思い浮かんだのは「フジテレビ、よかったな」だった。
今春、プライムタイムで放送されたフジテレビ系列の作品は、月曜21時の長澤まさみ主演『コンフィデンスマンJP』、火曜21時の坂口健太郎主演『シグナル 長期未解決事件捜査班』(関西テレビ制作)、木曜22時のディーン・フジオカ主演『モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―』の3作。
視聴率では、3作ともに1話たりとも2桁を記録することはなかった。しかし、それはあくまでリアルタイム視聴の目安に過ぎず、当然ながら思い入れの強さとは別物。SNSでの盛り上がりやドラマフリークのコメントを見る限り、熱狂的なファンの数ではむしろ3作が上回っていた。
では、フジテレビの3作は何がよかったのか。
実力派クリエイターが時間をかけた力作ぞろい
ビジネスを優先し、安易に視聴率のみを追うのなら、「1話完結型の刑事・医療ドラマを量産する」のが得策だ。事実、今期プライムタイムで放送された作品の平均視聴率は、1位が医療ドラマの『ブラックペアン』(TBS系)、2~4位が刑事ドラマの『特捜9』『未解決の女 警視庁文書捜査官』『警視庁・捜査一課長』(テレビ朝日系)と上位を独占した。
ただ、この「医療・刑事ドラマ」「1話完結型」への偏りは、テレビドラマ本来の魅力である多様性を失わせ、安定・安心な展開を好む中高年層以外の視聴者を斬り捨てることにつながってしまう。言わば、「目先の結果をほしがるジリ貧の戦略」に見える。
だからこそ、破天荒なコンゲーム(信用詐欺)を10本そろえた『コンフィデンスマンJP』。刑事ドラマの定型的な一話完結を打ち破り、連ドラらしい連続性を重視した『シグナル』。20人超の主要キャストをそろえ、壮大な愛憎劇を作り上げた『モンテ・クリスト伯』の価値は高い。そもそも、「この3作に挑んだ」というチャレンジ精神だけでも評価されてしかるべきだった。
加えて、3作ともに脚本・演出・演技の質は総じてハイレベル。稀代の脚本家・古沢良太が約1年がかりで書き上げた『コンフィデンスマンJP』、骨太なサスペンスの名手・内片輝を一本釣りする形で招き、チーフ演出を託した『シグナル』、同局のエース級にあたる脚本・黒岩勉×演出・西谷弘がタッグを組んだ『モンテ・クリスト伯』。
実力派クリエイターたちが時間をたっぷりかけて作ったのだから、質が高いのは必然と言っていいだろう。ピンとこない人は、改めて各シーンのセリフやカメラワークなどを1つ1つ見直してほしい。じっくり見れば見るほど、その映像は美しく、セリフに感心させられるのではないか。
「なぜ今?」のTBS、過去作に似た日テレ
一方、他局はどうだったのか。
テレビ朝日は、まさに通常運転だった。「深夜帯以外は基本的に刑事ドラマ」というマイペースであり、これは良し悪しあれど、視聴者も織り込み済み。今期の話題をさらった『おっさんずラブ』は、内容的にプライムタイムでも放送可能なものだったが、同局のプライムタイム視聴者は保守的だけに、今後もスタンスは変えないだろう。
TBSは、前述した医療ドラマの『ブラックペアン』に加えて、『花のち晴れ ~花男 Next Season~』『あなたには帰る家がある』と3作すべて原作モノという手堅さ。ただ、『ブラックペアン』は2007年発行の小説で、もともとの舞台設定は1988年。『花のち晴れ』は2005・2007年に放送された『花より男子』(TBS系)の続編的な作品。『あなたには帰る家がある』は1994年に発行された小説であり、「なぜ今?」という時代性のズレが最後までついて回った。
日本テレビは、視聴率争いでトップをゆく立場がそうさせるのか、過去の作品を意識したような筋書きの作品がそろった。『正義のセ』は『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系)と『HERO』(フジテレビ系)。『Missデビル 人事の悪魔・椿眞子』は『女王の教室』(日本テレビ系)と『黒の女教師』(TBS系)。『崖っぷちホテル』は『王様のレストラン』(フジテレビ系)と『高原へいらっしゃい』(TBS系)。ネット上に過去の情報があふれる今、「何かと似ている」作品は、視聴者の心に届きにくく、ツッコミを受けやすくなっている。