2018年、ドラマ界のトレンドはどう変わる? ドラマ評論家座談会【後編】

成馬「脇で輝いていた人ほど主演に行くのには苦労する」

成馬:イケメンでいうと、竹内涼真さんでしたね。『ひよっこ』(NHK)でブレイクした後に『過保護のカホコ』(日本テレビ)がきて、『陸王』につながるという流れも良かった。運も実力のうちと言いますけど、とても役に恵まれていた。

西森:やっぱり『仮面ライダー』(テレビ朝日)をやっていた俳優さんのコースってありますよね。『仮面ライダー』から朝ドラに出るという。竹内さん、佐野岳さんなど、『仮面ライダー』出身者が出ていた『陸王』では馬場徹さんの回がすごくよくて、ほかにも山崎賢人さんなども含め、若手をちゃんと良い役で使ってくれているなと感心しました。『陸王』は、『半沢直樹』(TBS)や『下町ロケット』(TBS)なども手掛けてきたチームですが、いつも良い役者を色んな世界から見つけてくるんですよね。今回の『陸王』だと、松岡修造さんが、演技者としてすごくちゃんと機能していて。

佐藤:女優さんはどうですかね。私は『カルテット』と『監獄のお姫さま』の満島ひかりさんがすごく良かったんですけれど、新しい人でいうと吉岡里帆さんがブレイクしたなと。

成馬:吉岡里帆さんは『カルテット』で一度頂点を迎えてしまった感じがありますよね。脇で良い演技を見せても、主役を演じるにはあと一歩足りないものがあって、その課題に挑戦している最中なのかなと。『ごめん、愛してる』(TBS)での主演は良かったけれど、『カルテット』の来杉有朱役のイメージが強烈すぎて、なにをしても胡散臭く見えてしまうところがあって。彼女は3番手、4番手の飛び道具的な役柄で評価されてきましたが、そこから主演に行くのは実は難しいんですよ。これまでの演技とはまた違う意味での精度が要求されるというか、ある意味でベタな演技も必要になるから。松岡茉優や波瑠も、そのあたりは課題ですよね。高畑充希はうまい具合に主演級にシフトできたけれど、基本的には脇で輝いていた人ほど主演に行くのには苦労しますね。だから、高橋一生とかもそのあたりが課題になるかもしれません。

西森:主演と脇役だと、脇役の方がキャラクターとして美味しいっていうのは、かなり多いケースで。主演になると看板を背負わなければいけないし、もしもドラマが失敗したら、その人のせいにされてしまう可能性もあって、必要以上に責任を負わされてしまって、大変なんですよね。それもこれも、キャスティング偏重で見てしまう感じの記事が多いのも関係あるのかなと思うんですけど、ドラマはいろんな要素で成り立ってるんだってちゃんと言っていかないと。

成馬:稲垣吾郎なんかは逆に、脇役を演じたことで俳優としての評価を高めました。だから、俳優にとっては人気絶頂で主演をやらなければいけない時期が一番大変なのかもしれません。

佐藤:これまで一度主演クラスの役を演じた方が脇役に挑戦すると、どこかランクが下がったように見えてしまう傾向にあったように思います。特に、ジャニーズのタレントさんにそうした評価が強く印象づいていた気がします。そのしがらみを打破していったのが、稲垣さんではないでしょうか。2017年ではKis-My-Ft2の玉森裕太さんが『リバース』(TBS)で脇を演じたことで、むしろ演技力の幅を見せることに成功しました。これからも柔軟な体制で、可能性を広げていく役柄に挑戦していってほしいですね。

成馬:ジャニーズだと、風間俊介さんのポジションはおいしいですよね。彼は少し前まで犯罪者などの悪役が多かったから、そういうイメージが強くなっていたけれど、『陸王』ではとうとう普通の人になった。やっぱり福澤さんチームは役者に対して優しい。

佐藤:2017年は、浅野忠信さんも面白い動きをしていましたね。

成馬:『A LIFE〜愛しき人〜』(TBS)ではすごくベタな演技をやってみせて、逆に『刑事ゆがみ』(フジテレビ)では脱力系の人を食った演技をしていて、90年台の浅野忠信が戻ってきた感じでした。『刑事ゆがみ』は変わったドラマで、どこが面白いかと問われると難しいんだけれど、神木隆之介くんとのやりとりが楽しくて、ずっと観ていられる。フジテレビの隠れた傑作でした。

西森:星野源さんが主演を務めた『連続ドラマW プラージュ ~訳ありばかりのシェアハウス~』(WOWOW)も、俳優のキャリアを考えるうえで興味深い作品でした。刑務所から出所してきた人たちがシェアハウスで暮らす話で、世間の厳しい目に晒される物語なんですけれど、地上波じゃなくてWOWOWなんですよね。星野源さんが『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS)後に、どんな作品に出ていくのか、ちゃんと考えて選んだ作品という感じで。ちなみに、星野源効果で加入者は増加したって噂も聞きました。

成馬:いまはBSやネットドラマも選択肢のひとつとしてアリですよね。フジテレビのFODで配信されて、その後にテレビでも放送された『ぼくは麻理のなか』もかなり面白かった。いわゆる男女入れ替わりものなんですけれど、ものすごくエロい話で。さえない大学生と女子高生が入れ替わるから、一見するとエロ系のラブコメかと思いきや、陰惨な青春ドラマになっていくんです。画面の作りも独特で、結構ショッキングでしたね。あと、主演の池田エライザさんは、本当にエロい演技ができる貴重な存在だと思いました(笑)。

西森『奪い合い、冬』は自信を持って珍作と言い切れる

佐藤:逆に、珍作だと思った作品はありますか? 個人的には『人は見た目が100パーセント』(フジテレビ)が変わった作品だったなと思いました。世界的に美しい顔と評価されている桐谷美玲さんが容姿やファッションセンスにコンプレックスを持つ主人公を演じるのは、難しい印象を持ったんです。桐谷さんがコメディアンヌとしての活躍が期待できる作品ではありましたが、もっと共感を呼ぶキャスティングでよかったのでは。またブルゾンちえみさんも、高飛車な女性ネタでブレイク中だったので、男性の視線に怯える役にフィクション感が強くなってしまったように思いました。

成馬:『人は見た目が100パーセント』のブルゾンちえみもそうですが、『カンナさーん!』(TBS)の渡辺直美も使い方がもったいなかったですね。芸人をキャスティングして難しいのは、本人の在り方の方が面白くて、ドラマがそれに追いつかない場合。なぜこの人が今さらこんなことで悩んでるんだろうって思ってしまう。役柄が普通の人間だと、むしろ彼女たちの魅力を半減させてしまうんですよね。もっと、本人のキャラクターを役にフィードバックしないと。

西森:直美さん自身もツイートで「あのキャラの行動は自分の思う行動とは違って不思議」みたいなことは言ってましたね。旦那がひどい男性なのに、直美さんの役は耐え忍ぶような感じで。演じている本人とけっこう違うキャラクターだったように見えて。

佐藤:すでに個として出来上がっている人が、保守的な一般人を演じるのは難しいですよね。

成馬:逆に、古谷実の漫画が原作となった『わにとかげぎす』(TBS)には、実写で俳優が演じることの限界を感じました。古谷実の作品には人間に対する徹底した冷たさみたいなところにあると思うんです。特に『ヒミズ』以降は、ものすごく突き放した視点で人間を見ていて、クズみたいな人間が情け容赦なくあっさり死んでいく。でも、実写になると、死ぬ前にその人物が自分の過去を振り返ったりするんですね。これは役者に対する配慮もあったのかなと。ドラマとしてはよくできていて、本田翼の見せ方も良かったんですけれど、古谷実の作品にあった冷酷さが中和されてしまっていて、ちょっと惜しかった。

西森:古谷実さん作品に限らずですが、ラストの解釈とかが変わるとやっぱり賛否両論にはなりますよね。映画『ヒメアノ~ル』とかも演技に関してはみんなすごく高い評価だったけど、展開についてはいろんな意見があって。

成馬:役者との付き合いがあるから、難しいですよね。かなり人でなしの監督じゃないと、あの漫画みたいに人間を雑に扱うのは難しい。その登場人物が惨めな死に方をするとしたら、役者になぜそうなのか説明しなければいけないだろうけれど、理由もなく死んでいくのが古谷実の漫画の醍醐味でもありますから。そういう突き放し方ができるのが漫画表現の強みでもあって。

西森:漫画原作はそこが難しいですね。『あなたのことはそれほど』(TBS)なんかも原作ものでしたが。

成馬:ただ、『あなたのことはそれほど』の場合は、原作ではいくえみ綾がものすごい繊細な人間描写をやっていたのに対して、ドラマはわざと雑な感じで作っていて、それが逆にエクストリームな面白さにつながっていたのかなと。そういう意味で、かなり変わった作品でした。

西森:珍作として見たのは、やっぱり『奪い合い、冬』(テレビ朝日)ですかね。脚本を鈴木おさむさんが手がけていて、明らかに狙ってオーバーで、なにかツイートしたくなるような演出をしていたと思います。

佐藤:最終回は副音声を聴きながら見ましたけど、主人公たちのやり取りに対して、「出ますよ、出ますよ!」みたいな感じで(笑)。

成馬:鈴木おさむさんはYouTubeの番組で、『奪い合い、冬』はわざとああいう作りにしてバズることを狙ったって話していましたね。

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