『おんな城主 直虎』から『西郷どん』へ 大河ドラマは朝ドラを超えるか?

『おんな城主 直虎』から『西郷どん』へ

 物語が進むにつれて評価が高まっていった大河ドラマ『おんな城主 直虎』(NHK)。

 脚本の森下佳子は、男装の麗人オスカルを主人公にフランス革命を描いた少女漫画『ベルサイユのばら』(集英社)と『甲賀忍法帖』や『魔界転生』といった伝奇小説で知られる山田風太郎の作品を参考にして本作を書いたと語っている。井伊という小国を舞台に史実を踏まえた上で隙間の物語を想像力で拡大していく手腕は、まさに山田風太郎的だったと思う。

 2000年代において低調だった連続テレビ小説(以下、朝ドラ)がSNSと連動することで大躍進するきっかけとなったのが2010年の『ゲゲゲの女房』だったのだが、同じ年に放送されていた大河ドラマが『龍馬伝』だった。現在は『るろうに剣心』シリーズ等の映画監督として活躍する大友啓史がチーフ演出を手がけた本作は、今まで進化が止まっていた大河ドラマの映像レベルを一気に更新し、複雑な物語を展開することで、新しい時代を切り開いたのだが、それと引き換えにドラマ自体がわかりにくいものとなってしまい、昔ながらの大河ドラマファンが離れてしまうこととなった。

 ビジュアル主導となった大河の低調が続く中、原点回帰となったのが『新選組!』の三谷幸喜が脚本を手がけた2016年の『真田丸』だった。

 しかし『真田丸』の成功は三谷幸喜という例外的な才能によるものだったため、それ以降の大河ドラマがどうなるのかは未知数だった。特に『おんな城主 直虎』はここ数年の大河では鬼門となっている女性主人公の大河ドラマだったため、途中からグダグダの展開になるのではないかと心配だったが、そこはストーリーテリングに定評のある森下だけに、ハードな歴史ドラマに仕上げていた。

 何より良かったのは、下敷きとした『ベルばら』のような少女漫画テイストの歴史物となっていたことだろう。直虎の元には様々なバリエーションのイケメンが現れては一緒に戦い、そして命を散らしていく。

 無邪気な王子様キャラの井伊直親(三浦春馬)、嫌われ役を演じながら直虎と井伊の国を守ろうとする小野但馬守政次(高橋一生)、盗賊の頭として自由に生きてきた龍雲丸(柳楽優弥)。

 この3人だけでも、爽やか好青年。ひねくれ優等生。不良番長と学園ドラマに欠かせない3パターンのイケメンがいて、何だかんだ言って3人とも直虎を好きなのだから、見ていてニヤニヤしてしまう。市原隼人が演じるマッチョな僧侶・傑山など脇役も充実しており、登場人物を容赦なく追い詰めていく血なまぐさい物語と甘いイケメンドラマを両立させるバランスの良さは見ていて心地良かった。何かと批判されがちな女主人公のイケメン大河ドラマだが、脚本がしっかりしていれば、ドラマとして面白いものになることを、本作は証明したと言えよう。

 もう一点。森下佳子の脚本が秀逸だったのは1年間50話における話数のペース配分だろう。大河ドラマが途中でダレて迷走してしまうのは、主人公の生涯や歴史上の事件を最初から最後まできっちり描こうとしてしまうからだ。その結果、書かなくてもいいエピソードまで拾ってしまい、物語がルーティーン化してしまう。

 対して、『直虎』には描きたい物語が明確だったため、物語に迷いがなかった。

 今までの大河ドラマならあっさり終わらせてしまう幼少期を序盤で丁寧に描いた。他にも主要人物となりそうな井伊直親が、突然退場したかと思うと、当初は敵か味方かわからなかった小野但馬守政次の物語をドラマの核とし、直虎と政次の男女の枠に収まりきらない濃密な関係を描き切った。

 無論、スロースタートだったことには賛否が別れた。最後の主人公と言える井伊直政(菅田将暉)が徳川家に仕えて出世していく展開も、もう少し前倒しで描き、きっちりと二部構成にすれば、さらに間口が広がったかもしれないが、華々しい直政の物語にたどり着くまでに、どれだけの犠牲が出たのかをしっかりと描かないことには、本作の説得力は生まれなかっただろう。三谷幸喜の『新選組!』も一日一話という縛りを自分で作ったからこそ、傑作となった。

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