2017年ドラマ評論家座談会【前編】 『ひよっこ』『カルテット』『過保護のカホコ』各局の話題作を振り返る

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣より、ドラマ評論家の成馬零一氏、ライターの西森路代氏、佐藤結衣氏を迎えて、2017年のテレビドラマを語り尽くす座談会を開催。前編では、『ひよっこ』『カルテット』『過保護のカホコ』など、2017年に大きな話題となった作品を中心に振り返りつつ、そこから読み解ける各局の傾向や社会の変化について語り合った。

後編はこちら→2018年、ドラマ界のトレンドはどう変わる? ドラマ評論家座談会【後編】

成馬「『民衆の敵』は意外な傑作」

西森:10月期のテレビドラマは、女性の群像劇がすごく多かったですね。前のクールはそれほど多くなかったのに、急に増えた印象です。

成馬:しかも、〈男VS女〉みたいな構図の作品が多くて、世相を反映している。ハリウッドでハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ報道があって、Me too運動が広がっている中、奇しくもドラマの流行も連動していった印象です。面白いのが、女性を主人公とした物語が多いのに、脚本を書いているのは男性作家がほとんどなんですよね。『監獄のお姫さま』(TBS)の宮藤官九郎もそうだし、『奥様は、取り扱い注意』(日本テレビ)の金城一紀もそうだけれど、男子校ノリの作品を書いていた人が、女性側の視点から悪い男たちをやっつける話を書いている。

西森:ただ、プロデューサーのクレジットを見ると、『奥様は、取扱注意』は『桐島、部活やめるってよ』などを手がけてきた日テレ アックスオンの枝見洋子さんらで、『監獄のお姫さま』は磯山晶さんが企画・編成でかかわっているので、女性の視点が企画の中に織り込まれているのかなと。

成馬:ちょっと毛色が違いますけど、『民衆の敵~世の中、おかしくないですか!?~』も女性の視点から描いていますね。たぶん「希望の党」代表だった小池百合子とかをモチーフにしていたのだけれど、代表辞任など一連の騒動が起こったことで、ドラマまで出鼻をくじかれてしまった感があります。

西森:『民衆の敵』は開始当初、それほど期待せずに観ていたんですけれど、回を重ねるごとに面白くなってきましたね。それで、改めて第1話から観てみたら、実は最初からすごくしっかりした作りのドラマでした。

成馬:『東京女子図鑑』をアマゾンプライムでやっていた黒沢久子さんという方が脚本を手がけていて、彼女は荒井晴彦の弟子筋の人なんですよね。今回の連ドラ脚本は大抜擢だったけれど、脚本自体はものすごくよくできていた。でも、作り方がやはりフジテレビで、ちょっと盛り込みすぎ。最初の選挙だけで5話やっても良いくらいで、もう少しゆとりのある展開にしてほしかったです。ただ、脇役の活かし方は上手で、高橋一生とか、最初は脱がせておけば良いみたいな安直な使い方しているように見えるけれど、実は複雑な内面を抱えたキャラクターとして描いていて、良い役でした。

西森:篠原涼子と高橋一生の関係性も良かったですね。恋愛関係ではないけど、すごい信頼しあっていて、バディ感がありました。一生さんの演じる藤堂は、デリヘル嬢と付き合っている設定で、最初はそういう色っぽいシーンを入れるためなのかと思っていたら、そこの関係性も後になるとグッとくるんですよね。

成馬:後から効いてくる。個々のパーツを見ると安直に思えるのに、見るほどに深みが増していく、意外な傑作でした。

西森:あんなに面白かったのにそれが伝わる前に終わってしまったのが残念です。

西森「SNSで話題になるのは平和な作品」

佐藤:フジ月9枠という視点では、ここ1年の流れをどう見ていましたか? 今年は『突然ですが、明日結婚します』からスタートしています。個人的には、主人公たちが集う場所がものすごく広い高級マンションで驚いたのを覚えています。

成馬:主人公はエリート銀行員で、アナウンサーと付き合っているという設定でしたね。昔のトレンディドラマのノリを、今の時代にあえてやってみたという感じの作品。その後に相葉雅紀を主演に迎えた『貴族探偵』があって、『コード・ブルー』のシーズン3があって、『民衆の敵』と続きました。『突然ですが、明日結婚します』も『貴族探偵』も、視聴率的に振るわなかったけれど、『貴族探偵』は実はミステリー好きや原作ファンには評判が良かったんですよね。『コード・ブルー』のシーズン3は、『リッチマン、プアウーマン』を作った脚本家の安達奈緒子さんとプロデューサーの増本淳さんによる作品で、個人的にこのコンビはフジテレビでも一番実力があると思っています。彼らがちゃんと“仕事と恋愛”を描けば、ここまで高い水準の作品が生まれるということを、改めて認識しました。フジテレビは今期でいうと、『刑事ゆがみ』も『民衆の敵』も『明日の約束』も、すべて水準以上の出来なんですよ。それでも視聴率で苦戦しているのは、フジテレビのブランドイメージが下がってしまっているからで、とてももったいないと思います。

佐藤:一時期、キャスティングの話題性に注目が集まってしまう作品が続いていた印象があります。旬なメンバーが集結するのは嬉しいですが、そうすれば“高視聴率が出る”という安直な姿勢として視聴者に捉えられていたような……。

成馬:それもあるし、フジテレビ独特の業界ノリみたいなのが見透かされているんだと思います。『民衆の敵』で篠原涼子が「愛しさと切なさと心強さと」をカラオケで歌おうとするシーンを入れてみたり、突然、藤原さくらを女子高生役で出してみたり。そういうところに90年代のフジテレビのノリが今も見え隠れしていて、それが安直に映ってしまうんですよ。

西森:たしかに『民衆の敵』では、篠原涼子にかつての作品を思い出させるような演技をさせちゃう感じがあって、なぜ昔のままにするんだろうという疑問がありました。これは、ほかのドラマでもあるんですけど、今の演技を見せてくれれば良いのにと。

成馬:福山雅治が主演だった『ラヴソング』にしてもそうですよね。TBSの火曜10時枠とかと比べると、キャスティングの仕方が時代とズレている感じがしました。SNSとの連動もイマイチうまく行っていない感じですし。作り手は本当に優秀なんですけれどね。

西森:フジテレビ系でも、関テレ制作のドラマは安定して人気がありますよね。

成馬:でも、関テレ制作で一番良かったのは、たぶん『銭の戦争』の路線ですよね。程よいピカレスク感とエンタメ感を融合していて、気軽に楽しめる良さがあったけれど、『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』、『僕たちがやりました』、『明日の約束』の三作は、ちょっと敷居が高くなってしまった感じがします。ドラマファンからは評判が高いし、実際のところ隙のない良作なんだけれど、火曜の夜に仕事から帰ってきた人たちが観るにはちょっとハードすぎて辛い内容だったかなと。それで視聴率が下がっているように思います。

西森:作り手が危機感を感じて、クオリティの高い骨太な作品を作ろうとしている意思は感じますけれど。

佐藤:ショッキングな急展開などで視聴者の興味を引きつけようとするのは、SNSでの盛り上がりを期待してのことなのでしょうか。

西森:さっきの作品をショッキングさでとりこもうとしているかというと、またそれとも違うとは思うんですけど今、SNSで口コミで話題になるのって、逆にバカリズムさんが脚本を手がけた『架空OL日記』(読売テレビ)みたいな何も起こらない平和な作品のほうだと思うんですよね。映画とか見てるとわかりますけど、「観る」という動機になるのは、良い作品に対する口コミのほうなんですよね。

成馬:むしろ、次々に過激な展開が起きるような炎上商法的なやり方は、視聴者から拒絶されつつあると思います。そういう手法の有用性は2013年の『半沢直樹』(TBS)がピークで、それ以降は“人を傷つけない優しいドラマ”が求められているように感じます。もちろん、作り手の心情として、人の心をえぐるような“痛いドラマ”を作ってみたいと思うのは当然で、それをやらなければドラマにならないという考え方も理解できます。それに、なにも起こらない物語を作るのは書き手の資質が問われるし、やっぱり難しいです。

西森:何も起こらないのに視聴者の興味を引き続けるって、本当に難しいですよね。それができていたのが、『架空OL日記』とか『ひよっこ』(NHK)なのかなと。

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