『響け!ユーフォニアム』アニメと原作は何が違う? 映画『最終楽章』後編に加えられた新規映像

『響け!ユーフォニアム』アニメと原作の差

※本稿は『響け!ユーフォニアム』シリーズのネタバレを含みます。作品を未読・未視聴の方はご注意ください。

 武田綾乃の小説を原作にしたアニメ『響け!ユーフォニアム』のシリーズが、9月11日公開の映画『最終楽章 響け!ユーフォニアム』後編で完結した。『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章』(宝島社文庫)の前後編をTVアニメ化した『響け!ユーフォニアム3』を再編集した第2弾だが、他の文庫に収録の短編からエピソードを足し、独自のシーンも付け加えて、長いファンの人にも驚きと感動を与えている。アニメと小説で『響け!ユーフォニアム』は何が違い、そして共に何を紡いできたのか。

 4月24日公開の『最終楽章 響け!ユーフォニアム』前編を観た人の多くが覚えた驚きがある。全13話のTVシリーズ『響け!ユーフォニアム3』を前後編にまとめる映画の前編で、10話分まで使ってしまっていたことだ。いったい後編にはどれくらいの新規映像が入るのか。その答えが、9月11日公開の後編で明らかになった。黒江真由と久石奏に関するエピソード追加によるキャラクター像の増幅だ。

 まず黒江真由。黄前久美子というユーフォニアム奏者が、北宇治高校吹奏楽部に入って2年間を過ごし、3年生を迎えた年に転校してきた真由は、吹奏楽の名門校でユーフォニアムを吹いていた実力を見せて、すぐに久美子と肩を並べる存在になる。

 それは、目指す吹奏楽コンクールの全国大会で、トランペットの高坂麗奈とソリを吹きたいという久美子の願いを妨げかねない存在だということ。原作の『決意の最終楽章』でも、TVシリーズ『響け!ユーフォニアム3』でも、そして『最終楽章』の前編でも、そんな久美子と真由のどちらがソリを務めるのかというやりとりが、何度も繰り返される。

 十分にソリを務めるだけの実力がありながら、真由はなぜか久美子を相手にコンクールメンバーを決めるオーディションの辞退や、メンバー入りしたあとのソリの辞退を申し出る。久美子は辞退を受け入れず、結果として京都大会で吹いたソリの座を、関西大会では真由に明け渡す。残る全国大会で久美子はソリの座を奪還できるのか、それとも真由がそのまま務めるのかが、原作でもアニメでも重要なポイントになる。

 TVシリーズの第3期の時は、原作とアニメでの展開の違いが話題になった。映画『最終楽章』後編でもその点は変わらなかったが、真由という人間がどうしてそこまでソリを辞退したがるのかという点が、追加シーンによってTVシリーズの時よりもくっきりしてきた感がある。後編では、幼い真由が何度も何度も転校を繰り返すシーンが加えられ、常に新しい場所に身を置くことの大変さのようなものが伝わってくるのだ。

 この点については、武田綾乃による短編集『響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のみんなの話』(宝島社文庫)に収録の「賞味期限が切れている」というエピソードにもヒントがある。転校した先で仲良くなった子に嫌われたと感じた真由は、その子が嫌だと思うことは全部やめると言い、「男子としゃべるのやめて」という無茶な要求ものんでしまう。

 高校に進んだ時は、そうした過去の出来事を話して、その昔の友達の言うことは聞かなくていいと言われると、それが正しいと思ってうなずいてしまう。転校した先で馴染むための波風を立てない振る舞い方が、すっかり身についてしまっていたのかもしれない。北宇治でも同じように振る舞おうとしたが、実力が何よりという北宇治吹部の方針の中で身を引くことができず、苦しんでいた。そんな真由の心情に、後編ではグッと近づくことができる。

 2024年6月27日に発売された『みんなの話』に収録のエピソードは、同じ年の2024年4月7日から6月30日まで放送のTVシリーズ第3期には、当然含まれていない。真由に関する描写も、原作の『最終楽章』をベースにして、アニメの側でストーリー展開に合わせて膨らませていったところがある。ただ、真由という存在の得体の知れなさについては、そのまま置き去りにされたところがあった。

 映画の後編では、『みんなの話』でも触れられた、転校続きの環境によって育まれた心情を入れた。さらに、『みんなの話』に収録された、奏の視点で真由を見た「~開幕・スケルツァンド~」「~幕間・アジタート~」「~幕間・グラーヴェ~」「~閉幕・パストラーレ~」からエピソードを拾うようにして、奏が真由に抱いていた敵愾心を静め、初めて「真由先輩」と呼ぶシーンが描かれる。

 原作とアニメとで展開が違うため、奏が真由を認めた経緯がまったく同じという訳ではないが、どこか異邦人めいていた真由がしっかりと北宇治吹部の一員になり、「~幕間・アジタート~」で奏に吐露した「同窓会に呼ばれたいんだ、私」という願いもかなうような雰囲気が、後編ではしっかりと感じ取れるようになった。

 奏と久美子の関係についても、映画の後編でぐっと深まった。原作の『最終楽章 後編』もTVシリーズの第3期も、全国大会の結果を受けて本編は終わり、エピローグとして久美子のその後が描かれ、北宇治吹部がしっかり続いていることが描かれた。映画の後編ではそこに、卒業する久美子と奏が最後の言葉を交わすシーンが追加された。

 『みんなの話』では、北宇治吹部の沖縄への演奏旅行に、久美子たち3年が卒業旅行を兼ねて参加する「未来への約束」というエピソードが収録されている。そして、奏視点の「~閉幕・パストラーレ~」の中で、久美子が奏の肩を優しく叩いて「北宇治を頼んだよ」というシーンが描かれている。シチュエーションの差こそあれ、北宇治の音楽が繋がれ、新たに紡がれていくことを予感させる終わり方は共通。真由への理解も含め、映画を観て原作を読むことで得られる楽しみは多そうだ。

気になるのは、『響け!ユーフォニアム』シリーズは、本当にこれ終わってしまうのか、ということ。後編の公開に合わせ、これがラストという言葉が喧伝されているが、原作については9月10日発売の武田綾乃監修による『響け!ユーフォニアム 北宇治高校の吹奏楽部日誌2』(宝島社文庫)に、書き下ろしのショートストーリーが4編収録されていて、登場するキャラクターたちの新しいエピソードを読むことができる。

 「梨々花&奏のある雪の日」では、久美子の次の代の部長になった剣崎梨々花と副部長の奏のちょっとしたやりとりが、久美子たちが抜けた後の北宇治吹部の行方をうかがわせる。「卒業間近の3年生の昼休み」では、1年生の時に塚本秀一に失恋した加藤葉月に新たな出会いが訪れる。

 さらに『吹奏楽部日誌2』では、原作者の武田がインタビューに答えて、まだまだ書きたいストーリーがあることを話している。一例が、久美子たちの1つ上にいた後藤卓也と長瀬梨子が結婚式を挙げるエピソードだ。すぐにという訳ではなさそうだが、何かの機会に紡がれていく可能性はありそうだ。

 アニメとなると人手もかかるため簡単にはいかないが、久美子と同級の佐々木梓が進学した立華高校を舞台にした『響け! ユーフォニアムシリーズ 立華高校マーチングバンドへようこそ』(宝島社文庫)の映像化を、作者も含め希望する声は少なくない。中川夏紀を中心に南中カルテットを描く『飛び立つ君の背を見上げる』(宝島社文庫)映像化の希望もある。

 いつか訪れるかもしれないそれらの機会を待ちながら、今は『最終楽章 響け!ユーフォニアム』後編に感涙し、最新刊『北宇治高校の吹奏楽部日誌2』の盛りだくさんな内容に自分のユーフォマニアぶりを確認するのが良さそうだ。

■書誌情報
「響け!ユーフォニアム」シリーズ
著者:武田綾乃
出版社:宝島社



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