仲良し四姉妹はなぜ“悪女”となったのか? 愛情と策謀が大陸を揺るがす戦乱ファンタジー『連天乱世の四姉妹』の魅力

小説『連天乱世の四姉妹』の魅力

 書店で新刊台を見ているときや、何気なく目に入って手に取った本を開いてみたときに、「これは面白い本だ」と確信を持つ本との出会いがある。その確信が外れることは、不思議とない。本好きなら、そんな出会いを経験してきたはずだ。

 瀬那和章『連天乱世の四姉妹』(双葉文庫)を手にしたときも、ああこれは絶対に好きな本だな、という確信があった。


 まず、舞台設定がとてもいい。『連天乱世の四姉妹』の舞台となるのは、かつて一つだった大陸が天災によって三つに分かたれた世界だ。それぞれの大陸を統一した三つの帝国は海を挟んでにらみあい、ゆくゆくは世界制覇を成し遂げたいと目論んでいる。

『連天乱世の四姉妹』1巻(瀬那和章/双葉社)

 そんな三つの大陸の中心に位置するのは、鯨のような形の島国・波多留(はたる)。海峡に架けられた橋によって三つの大陸と繋がる波多留は中立の姿勢を取っていたが、世界制覇の足がかりとなる要所を三帝国が放っておくはずもない。物語の導入にふさわしい波乱含みの三竦みに巻き込まれる状況に、否が応でも期待が高まる。

 悩んだ結果、波多留王は娘を三帝国に嫁がせる。「花の四姉妹」と呼ばれた仲の良い姉妹のうち、国に残ったのは身体が弱く取り柄もない末娘・白漣だけ。すべては国を守るために、と誓い合って離ればなれになった四姉妹が再び顔を合わせたのはそれから二年後、父王の葬儀の場である。

 王弟が即位するものと思われていた波多留の王座は、末娘の白漣が継いでいた。取り柄もなく臆病だったはずの白漣が、いったいなぜ? それも、今やどんな気難しい人間も白漣を慕っているのだ。いっそ不気味な気がするほどに。

 疑念を募らせていた姉たちは、白漣から「姉妹が力を合わせれば波多留を守れる」と告げられる。彼女が提案した策に乗ったことで、四姉妹の運命は狂い始めていくのだった……。

純粋でいびつな四姉妹が世界を動かすファンタジー

 そんな導入から始まる物語は、個性豊かな四姉妹それぞれの思惑と人生が時に噛み合い、時にボタンの掛け違いを起こしながら展開していく。

 ここで、四姉妹を紹介したい。

 雪国・袁璃(えんり)の文武共に優れた第二皇子に嫁いだのは、長女・紫洋(しよう)だ。美貌と才智で名を知られた紫洋は愛する夫に国を継がせるべく、白漣の策を国に持ち帰る。四姉妹で一番恵まれていたかと思われた彼女がいかに苛烈に心を燃やすようになったのかを、ぜひ物語を通して味わって欲しい。

 享楽と放蕩を愛する熱砂の国・パシルレーンの皇帝に嫁いだのは、誰からも好かれる愛嬌の持ち主である次女・桃汐(とうせき)。あえてここでは言及しないが、彼女が嫁ぎ先で目の当たりにした厳しい現実については、2巻で詳しく語られる。

 戦いを重んじる複数の部族からなる草原の国・ウルグの将軍に嫁いだのは、剣を取ることを選んだ三女・紅波(こうは)。密かに思い焦がれた男に嫁いだはずが、夫のオルハンはかつての覇気を失っていた。紅波は夫の中に眠る獰猛な狼を呼び覚ますために、白漣の策に乗ることを選ぶ。

 2巻は、姉二人に引け目を感じていた紅波が、白漣の策に押し上げられるようにして燃えるような運命の渦に乗り出す姿が大きな読みどころだ。さながら叙事詩に立ち会う心地を味わえるシーンには、ぞくりとさせられること必至。

 四姉妹の末っ子である白漣は、長らく自分の才気を隠して生きてきた。優しくも為政者としては凡庸な父が愛した国を守るため、そして姉たちと「本当の姉妹になる」ために策謀をめぐらせる彼女は、四姉妹でもっとも澄んだ狂気の持ち主だ。

 1巻ではすべてを読んで戦況を支配していたかに見えた白漣だが、2巻では彼女の計略が上手く働いていきながらも、想定外の出来事が起こる。

 どこかいびつさをはらみながらも、それぞれの「愛情と純粋さ」を持つ四姉妹には、それぞれ生まれつき不可思議な力がある。類い希な記憶力を持つ紫洋、人の嘘を見抜く桃汐、人の動きを先読みできる紅波、他者の人格を取り込むことで心理や行動を予測する白漣。彼女たちの能力が戦況や物語に噛むことで巧みにドラマが動くさまは、読んでいて気持ちが良いポイントの一つだ。

語られる歴史の真実と嘘が絡み合う面白さ

『連天乱世の四姉妹』2巻(瀬那和章/双葉社)

 最後に、本作が白漣の従者・星羅が若き歴史家に「世界を巻き込む戦乱を起こした四人の悪女」の真実を語る構成を取っていることに言及したい。

 四姉妹の父の葬儀から三十年後にあたる「現在」で、世界は一つの国に統一されており、四姉妹は稀代の悪女として歴史書に名を刻まれ忌み嫌われていることが示される。

 とはいえ、いくら歴史は勝者が道筋を付けるものといっても、たかだか三十年で「真実」が薄れることはないのでは? それもどうやら、人の認識までもが書き換えられているような強さで。

 ……読み進めるうちに、読者の頭にはそんな疑問が浮かぶはずだ。この疑問については、2巻の末尾で作中の歴史家も指摘している。星羅と歴史家の会話に滲む歴史の真実を嘘で塗りつぶしてしまえる存在については、物語が進むにつれて明らかにされていくのだろう。

 四姉妹は、いったいなぜ稀代の悪女となるに至ったのか。どの国によって世界が統一されたのか。そしてなぜ、四姉妹をめぐる記録と認識は星羅の語る真実とズレているのか……。

 作中に散りばめられた要素が想像をかきたてつつも、まだまだ語られていないことも多く、続きが気になってやまない。2巻までの書きぶりを読めば、この先の面白さは約束されているようなものだ。また一つ面白いファンタジーが現れた幸いを噛み締めつつ、続刊を待ちたい。

■書誌情報
『連天乱世の四姉妹 2』
著者:瀬那和章
価格:858円(税込)
発売日:2026年9月9日
出版社:双葉社

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