【完結記念】『カワセミさんの釣りごはん』 匡乃下キヨマサが明かす、作品に込めた想い「私は漫画に育ててもらったようなもの」

『カワセミさんの釣りごはん』 著者に聞く

 「漫画アクション」(双葉社)で連載していた『カワセミさんの釣りごはん』(匡乃下キヨマサ)の最終14巻が7月に発売され、多くのファンがその完結を惜しんだ。釣りと料理をかけ合わせたアウトドアエンタテインメントである本作は、釣りや調理の細かな解説や、雄大かつ心休まる自然の描写がふんだんに盛り込まれているが、なにより登場人物であるカワセミとミサゴ、シロとクロのJK2ペアの関係性が魅力的で高い評価を受けていた。今回は約7年という長期連載を終えたばかりの匡乃下キヨマサ氏に、執筆の裏側や漫画に対する想いを聞いた。

「担当者が1年半で辞める」ジンクス

『カワセミさんの釣りごはん』1巻(匡乃下キヨマサ/双葉社)

ーー長期の連載、お疲れさまでした。今のお気持ちをお聞かせください。

匡乃下キヨマサ(以下、匡乃下):最初は単行本3巻で打ち切られると思っていましたし、ここまで続けられたのは、読者と書店のみなさんに支えていただいたおかげだと思います。特に地元の書店、福岡県の八女市という田舎なんですが、すごく熱心に売っていただいて、感謝の気持ちしかありません。ファンの方も、登場キャラの人格をChatGPTに移植して会話して楽しんでいる人がいるようで、そんな熱心な皆様のおかげでやってこられたと感じています。

ーー『カワセミさんの釣りごはん』は当初「COMICメテオ」(フレックスコミックス)に読切が掲載されるも連載がかなわず、双葉社の公募企画「プロのためのセカンドオピニオン」に応募したと聞きました。作品に対して強い愛着があったのでしょうか。

匡乃下:私はもともと下積み時代に、担当についてくれた人が1年半で会社をやめるというジンクスがあったんです。そして引き継いだ新しい担当さんと合わなくて、別の出版社に作品を持っていくということを、10年ぐらい繰り返していました。「メテオ」のときもようやく読切までこぎつけたあとに、ジンクスが発動して担当さんが退職し、次の担当さんから「もう一回、イチから作り直しましょう」と言われたんです。そのときにはもう第1話のネームができていたので、どうせ無理かなと思いながら双葉社の企画に応募したら、連載が決まったという感じです。もう捨てられない限りは、双葉社についていこうと思っています。

ーー当時は「この作品ならいける」と思っていましたか?

匡乃下:実はけっこう投げやりな気持ちだったので、賞の中身のこともよくわかっていなかったんです。だから最初は読切が掲載されると思っていて、しばらくいつも通りに過ごしていたら連載って言われて、あわててバイト先の店長に辞めさせてくださいって言いにいったりとか、そんな感じでした(笑)。

ーー連載当初は、何話ぐらいまでイメージができていたんですか?

匡乃下:1巻が5話掲載で、3巻で打ち切られると思っていたので、15話ぐらいです。

ーーそこから描き続けるのは苦労がありましたか?

匡乃下:最初はきつかったんですが、カワセミや他のキャラクターの今後は、こういう未来があるのかなとか考えて、それにつながるように作っていったので。今回はなんの話にしようかと考えることはありましたけど、そこまで困りませんでした。

ーー長く描き続けているとキャラクターが勝手に動き出すという話をよく聞きますが、『カワセミさん』でもありましたか?

匡乃下:カワセミでよくありました。今回はこれでと決めて料理を描き始めたら「カワセミならこれを使ってもっと作るはずだよな」って、メニューが増えていったりとか。ほかにもアジのようなライトな釣りをしているときに、「ミサゴとクロはこれじゃ満足しないよな」って、ほかの釣りを始めたりとか、そういう感じはありました。

転換点は10巻収録の46話

ーー描き続けているうちに、内容や絵柄が変化していったところはありますか?

『カワセミさんの釣りごはん』10巻(匡乃下キヨマサ/双葉社)

匡乃下:みんな思っているでしょうが、最初と後のほうで絵柄は大きく変わりました。

ーー最初はセクシーさが強調されていたように思います。

匡乃下:あの頃は正直、作品にそこまで自信がなかったんで、そういう要素も必要かなと思ってやっていました。内容でいうと、46話(10巻収録)で話の作り方を変えました。毎回、テーマを決めて描いていたんですが、ここでテーマをもうちょっと深く掘る作り方に変えたんです。ひとつの話題から、横に話を展開させていくような感じに。会話も、少し深い内容にするとか。最初はちょっと難しい感じになるかなと思ったんですけど、ここまで読んでくれた読者なら受け入れてくれるだろうと、やってみたら特に不満の声もなかったので、やってよかったです。

ーー変えたことで描きやすくなったということはありましたか?

匡乃下:思っていた以上に調べなきゃならないことが増えて、しんどかったです。こういう話をするならこういう知識がないとダメだなと、本を読む時間が増えて、作画時間を圧迫してしまったんです。面白く読んでいただけたようなので、それはよかったと思いますが。

ーーほかで、苦労した回はありましたか?

匡乃下:一番、大変だったのは最終話ですが、これは作業が押し詰まってしまっての苦労なので。ほかは27話(6巻収録)で、カワセミたちが隠岐の島に修学旅行に行った回です。当時、コロナ禍で取材に行けなくなってしまったんです。仕方ないので現地の友人に島を歩きながら写真を撮ってもらってそれを資料にしたり、方言のチェックをしてもらったりしました。

 あとは37話(8巻収録)で私がコロナに罹ってしまって、最後のほうはだいぶ作画がブレているんです。30分描いては1時間寝ての状態でなんとか仕上げました。そのときはコロナだとわかっていなくて、描き終わってから、あれはコロナだったなって感じなのですが。

『カワセミさんの釣りごはん』6巻【左】、同8巻【右】(匡乃下キヨマサ/双葉社)

ーー連載を続けていくうえで、健康を維持するルーティーンはありますか?

匡乃下:全然、なにもしていないです。起きて原稿を描いて、疲れたら寝るというのを繰り返しているだけで。世間からは漫画家といわれますが、私はこれしかできないので、手を抜いてしまったら読んでくれる人に失礼ですし、なにかお返しをするためにもそれぐらいはやらなきゃって感じでやっています。

ーー腰痛は職業病ともいわれますが、大丈夫ですか?

匡乃下:腰は全然、平気なんです。ただ、私は椅子に座るときに前かがみになるクセがあって、足がつま先立ちみたいな状態になるんです。その姿勢で長時間、作業していると、足の甲の筋肉が炎症を起こして立てなくなってしまうということが、年に2回ぐらいあります。それもあるので、家には松葉杖を常備してあります。

ーー作中ではさまざまな釣りをしていますが、匡乃下さんが一番、好きな釣りはなんですか?

匡乃下:一番、好きなのは渓流のヤマメ釣りです。ヤマメが一番好きで、ただあんまり描きすぎると担当さんに「この前も描いていましたよ」って怒られるので、自重しています。

ーーなにが魅力なのでしょう?

匡乃下:もともと、田舎の山の中で育ったので、ヤマメのいる渓流の景色が好きですし、なにより落ち着くんです。海もいいんですけど、けっこう人が多くて、人がいなくてひとりを満喫できる渓流が好きなんです。

ーー料理もさまざまなものが登場しますが、実際にご自身で作っているんですか?

匡乃下:作っています。ときどき、手に入りにくい食材、ウツボ料理とかは、前に食べた記憶で描いていますけど、基本的には実際に作って描いています。

『カワセミさんの釣りごはん』12巻(匡乃下キヨマサ/双葉社)

ーーお気に入りはありますか?

匡乃下:60話(12巻)で出てきた、ヤマメの照り焼き丼です。丼に入れたヤブカンゾウという山菜は、私が実際に貧乏時代に食べていて、これを食べると連載が始まる前の、あの頃を思い出します。

ーーお気に入りのキャラはいますか?

匡乃下:描いていて楽しかったのは、カワセミです。今度はなにを作らせようかとか、考えているのが楽しかったです。あとはクロも楽しかったです。シロは、突飛なことを言い出しやすいキャラだったので、話をうまくまわせました。かなりいいキャラなので、次の作品でもシロのようなキャラを出したいと考えています。

ーーカワセミ、ミサゴ、シロ、クロ、4人の関係性が魅力でした。その部分はどのぐらい意識していましたか?

匡乃下:初期の段階でこの4人でペアを組ませてまわしていこうということは、考えていました。ただ、だんだんと絡むパターン、型ができてしまって、こういうのはよくないなと。それぞれの組み合わせだけでなく、別のキャラと絡ませるようにしたり四苦八苦していました。あとは、お互いのペアを尊重し合うようにしていました。カワセミとミサゴはシロとクロのことを小潟さん、玖瑪さんと名字で呼ぶようにしていて、シロとクロもカワセミとミサゴを名字で呼ばせたり。ペア同士で互いのスペースを意識するというか、尊重させていました。

「漫画に育ててもらった」子ども時代

ーーカワセミを含めた4人の人気はかなりのものですが、その絶妙な距離感も重要だったのだと思います。話を変えまして、最近の漫画業界で気になるトピックはありますか?

匡乃下:私が子どもの頃に比べると、大人が漫画を読むことがごく普通のことになっています。そういう大人のために、漫画の内容もけっこう高度になっているなと感じます。一方で少年誌が弱くなっている、新しく入ってくる子どもたちの入口が狭くなっている気がするので、個人的には「コロコロコミック」(小学館)には期待しています。少年誌というジャンルには、がんばっていただきたいです。

ーー匡乃下さんの漫画の入口は、なんの作品だったんですか?

匡乃下:初めて読んだのが小学校に入る前、近所の廃品回収のところで拾った『ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章』(スクウェア・エニックス)の2巻だったんです。そこにいた大人の人にもらっていいか聞いて持って帰って、家で延々と2巻を読んでいました。それまでは、漫画というもの自体を知らなかったんです。

ーーそこからどっぷり漫画にハマった感じですか?

匡乃下:そうですね。いとこに、床屋に『こち亀』(こちら葛飾区亀有公園前派出所/集英社/秋本治)が全巻あるぞって聞いて、用もないのに入り浸ったりしていました。テレビアニメが放送されていたんですけど、漫画の最初の頃は作風が違うので、知っている両さんじゃないなとか思いながら読んでいました。

 初めてブックオフに行ったときは驚きました。これ全部、無料で読めるんだって。当時、小学2年生で、ブックオフがなにかわかっていなかったんで、売りものだと思わなかったんです。ただ、ずっと立ち読みしていると足が痛くなってくるんで、ブックオフで安い漫画を2冊ぐらい買って近くの家電量販店に行って、マッサージチェアに座ってずっと読んでいました。それで足が治るとまたブックオフに行くの繰り返しで。そのときは『ベルセルク』(白泉社/三浦建太郎)でした。

ーー夢中になって読んでいたわけですね。匡乃下さん自身は、自分の漫画をどんな読者に届けたいと考えていますか?

匡乃下:私が想定しているのは、14歳の私自身です。今はそんなことないんですけど、子どもの頃は親とあまり仲がよくなかったんです。家族というのは最初に触れる社会だと思うんですが、それもあって社会のことを知る機会があまりなかった。それを教えてくれたのが、漫画だったんです。だから、私は漫画に育ててもらったようなものなんです。そんな自分が漫画家になったんだから、今度は同じようなものを描いて、お返しするのが筋かなと思っています。

 だから、なにかしら読む人のためになるようなことが、ひとつでもあればと思って描いています。たとえば、『カワセミさん』を読んで釣りに興味を持ってくれるのもいいですし、なにかを始めるきっかけになればいいなと思います。ちょっとした雑学みたいなことでも、興味を持って調べてくれて、なにかの役に立てればうれしいです。

ーー最後に次回作について、言える範囲で教えていただけますか。

匡乃下:いまネームを作っている最中です。お話ししたように最初の出会いが『ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章』で、そこから『ベルセルク』にいったようにアクションやファンタジーが好きなので、そういうのがいいかなと。

ーー楽しみにしています。長年のジンクスを破った担当さんとがんばってください。

匡乃下:今年中に始められればと考えています。

『カワセミさんの釣りごはん』14巻(匡乃下キヨマサ/双葉社)

◾️作品情報
『カワセミさんの釣りごはん』
全14巻発売中
著者:匡乃下キヨマサ
価格:682円〜792円(税込)
出版社:双葉社
第1話はこちら:https://comic-action.com/episode/13933686331608586237


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