アニメ『ルックバック』のクレジットにある「原動画」スタッフとは? 監督・押山清高が込めた、クリエイターへのリスペクト

※本稿では、藤本タツキ『ルックバック』(集英社)の内容に触れています。同作を未読の方はご注意ください。(筆者)
押山清高監督のアニメーション映画『ルックバック』(2024年)が、2026年7月25日(土)20時から、NHK Eテレにて放送される(今年3月22日以来のテレビ再放送となる)。
原作は、藤本タツキの中編コミック。2021年7月19日、「少年ジャンプ+」にて公開されるやいなや、大きな話題を呼んだ青春漫画の傑作だ。
主人公は、学年新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の「藤野」。自分の才能に絶対の自信を持っている彼女だったが、あるとき、同じ学年新聞に掲載された「京本」という不登校の同期生が描いた4コマ漫画の「絵」に衝撃を受ける。
京本に負けじとひたすら絵の修練に励む藤本だったが、いくらがんばってもその画力差が縮まることはなく、結果的に、藤野は漫画を描くことをやめてしまう。
だが、小学校卒業の日、教師に頼まれて仕方なく、京本の家に卒業証書を届けに行った藤野は、初めて京本と対面する。そして、京本の口から出た「私っ!! 藤野先生のファンです!!」という言葉を聞き……。
「描く」という行為が、2人の少女の心をつなぎ、再び漫画と真剣に向き合うことになった藤野は京本とコンビを組み、わずか13歳で漫画家デビューする(ペンネームは、藤野キョウ)。しかし、高校卒業を前に、彼女たちは別々の道を歩むことになり、やがて、ある凄惨な事件が起き、2人に“本当の別れ”が訪れることになるのだった。

アニメーターの努力の痕跡を活かした「原動画」
映画『ルックバック』で押山清高監督は、この藤野と京本という2人の少女たちが懸命に絵を「描く」姿を通して、すべてのクリエイターたちへのリスペクト(さらにいえば、“絵を描く人々への讃歌”)を表わそうとした。
その想いがもっとも表れているのが、本作に参加した原画マンたちが、「原画」ではなく、「原動画」とクレジットされている点だろう。通常のアニメーションでは、原画マンが描いたラフな主線(おもせん)は動画マンが整理してしまうため、原画マンが描いた線がそのまま画面に出ることはない(特に、輪郭線を探るために試行錯誤したアタリの線などは、確実に消されてしまう)。
ところが、自身も“絵を描く人”である押山監督は、本作ではあえて、そうした生々しい「線」の数々を、つまり、“原画マンたちが試行錯誤した痕跡”を残したのである。このことが、「主人公たちが努力して絵を描く姿」と重なり、藤野と京本というキャラクターに本作ならではの「命」を吹き込んだように私は思う(注・商業映画としては異例の少人数体制で作られた本作では、押山監督自身が大半の「原動画」を描いている)。
京本の訛り(秋田弁)に注目
また、本作で注目すべきは、(「線」だけでなく)「音」の表現だろう。とりわけ、京本役の吉田美月喜による秋田弁の「訛り」が素晴らしい。
小学生時代は不登校児で、外部との接触がほとんどなかった京本は、無意識のうちに、地元の訛りが身についてしまっている。一方、子供の頃から広い世界に目を向けていた藤野(声・河合優実)は、ほとんど訛っていない(これは、のちに、藤野が上京してプロの漫画家として活躍し、京本が東北の美大で絵の勉強をする、という未来を暗示してもいる)。
吉田美月喜は、本作が声優初挑戦だったらしいが、その瑞々しい演技によって、京本というキャラクターが持つ真面目さと愛らしさをうまく表現した。
描くことは生きること
最後に、藤野と京本という2人のキャラクターについて考えてみたいと思うが、あらためていうまでもなく、“藤”野、京“本”という名を与えられた彼女たちは、原作者である藤本タツキの分身だろう。
よりわかりやすくいえば、「漫画家・藤本タツキ」の中にある2つの人格――「面白い作品を描いて多くの人を楽しませたいエンターテイナー」が藤野であり、「ただひたすら画力の向上を追求したいアーティスト」が京本である(これは、彼女たちが小学生時代に描いていた4コマ漫画の内容を見れば一目瞭然である)。
この2つの人格のせめぎ合いが、藤本タツキを、現代の日本の漫画界を代表するクリエイターのひとりにしているのは間違いないが、たぶん、押山清高監督も、同じようなタイプの表現者なのだろう。だから、他者(藤本タツキ)が描いた物語でありながら、自らの人生をなぞるかのような説得力のある映画ができたのではないだろうか。
そう、藤本タツキにとっても、押山清高にとっても、藤野と京本がそうであったように、“描くことは生きること”なのだ。
ちなみに、2026年9月11日には、是枝裕和監督による『ルックバック』の実写映画が公開予定だ(主演/出口夏希・蒔田彩珠)。予告編の映像を見た限りでは、こちらの作品にも大いに期待していいと思う。
■放送情報
『ルックバック』
NHK Eテレにて、7月25日(土)20:00~放送
出演:河合優実、吉田美月喜
原作:藤本タツキ『ルックバック』(集英社ジャンプコミックス刊)
監督・脚本・キャラクターデザイン:押山清高
音楽:haruka nakamura
アニメーション制作:スタジオドリアン
配給:エイベックス・ピクチャーズ
©藤本タツキ/集英社 ©2024「ルックバック」製作委員会
公式サイト:lookback-anime.com
公式X(旧Twitter):@lookback_anime






















