是枝裕和は藤本タツキ『ルックバック』をどう仕上げる? ドラマ評論家に聞く、実写化の難点

藤本タツキ『ルックバック』実写化の難点

※本記事は漫画『ルックバック』の内容に触れる部分があります。未読の方はご注意ください。

『ルックバック』©︎藤本タツキ/集英社

 藤本タツキの人気読切『ルックバック』の実写映画化が発表された。監督・脚本・編集を担当するのは、『万引き家族』や『怪物』などの映画作品で監督を務めた是枝裕和だ。

 2026年に公開予定の本作は原作が人気なだけあり、国内での注目度も高い。今回はドラマ評論家の成馬零一氏に、実写映画『ルックバック』について話を聞いた。

「いつかは実写映画化するんじゃないかと思っていましたが、誰が監督しても大変だろうとも思っていました。アニメ映画(2024年公開)が原作に忠実で58分の短編だったじゃないですか。原作漫画の映像化という意味では、アニメ映画のアプローチは完璧で、同じ内容にするとやっぱりそのくらいの尺にせざるを得ないと思います。対して、実写映画で同じことをやるのは難しいと思うので、何か異なるアプローチが必要になると思っていました。ただ、それはとても難しくて、誰が監督しても批判は避けられないと思うんですよね。だから実写化は難しいと思っていたのですが、監督が是枝裕和さんと聞いた時は『なるほど』と思いましたね。確かに是枝監督なら“アリ”だなと」

 143ページの読切が原作であるからこそ、映画化した際の注目ポイントがあると成馬氏は続ける。

「大前提として、原作漫画が素晴らしいですし、是枝監督も素晴らしい監督なので、普通に撮れば傑作になると思います。是枝監督は『海街diary』などの漫画原作の映画も撮っていますし、子役の演出にも定評がある。だから、子役は新しい方を起用して、大人になった藤野役と京本役には若手俳優を起用するのかなと思います。アニメ映画で声を担当した河合優実さんと吉田美月喜さんがお上手だったので、そのまま実写映画で演じてもいいのかもしれません。是枝監督なので、田舎の風景も魅力的に撮るだろうし、クオリティの高いモノを生み出すことは間違いないと思います。そのうえで、気になるのは原作からの変更点です。もしアニメ映画と違い、尺を1時間半や2時間にする場合、オリジナルの描写を追加する必要があります。僕個人の願望としては、追加部分で犯人側を深掘りしてほしいです」

 漫画『ルックバック』では、京本が殺害される凄惨な事件が起きてしまう。

「作中で起きる事件は、京都アニメーション放火殺人事件を受けて描かれたのだと明確に感じます。藤本タツキが自己投影して描いたのが、自身の名字から1文字ずつ取ったと思われる藤野と京本でしょう。でも僕は、京本が犠牲になった事件の犯人もある種、藤本タツキの分身として描かれた存在だと思っています。藤本タツキは『チェンソーマン』や『ファイアパンチ』など暴力的で鬱屈した作品を多く描いていますし、『ルックバック』の後に発表した『さよなら絵梨』も男の子のドロドロした感情を描写しています。だから『ルックバック』の犯人は藤本タツキが『もし漫画家になれなかったら、こうなっていたかもしれない』を、考えて描いた人間だと思っています。そう考えると、実写化で深掘りする必要性も感じますよね。2時間の尺になるんだったら、1時間は犯人側の人生を描いてもいいのではないかと思います」

 ただ、漫画を原作とする作品に対して、世間から厳しい目が向けられることが多いのも事実だ。

「近年は漫画を原作とした作品に対して、制作側が原作を変更したり批評的な解釈を加えたりすることに、世間がすごく厳しくなっています。アニメ版の『鬼滅の刃』や『チェンソーマン』などをみても、原作のまま映像化することが高評価に繋がりやすい印象です。そして実写化の場合はさらにそれが顕著で、原作の改変に対してすごく厳しくなっています。ですが是枝監督は犯罪を扱った作品を手掛けることも多いですし、原作にはなかった犯人側の物語を深掘りする形で、作品のテーマにより深く踏み込んでもいいんじゃないかなぁと思います。原作通りの内容にするのか、是枝監督独自の解釈を加えた内容にするのかが、注目している一番のポイントです。是枝監督の『ルックバック』へのアプローチは、日本の実写作品の今後にも関わってくると感じています」

 藤本タツキ初の実写作品となる『ルックバック』。是枝裕和監督との化学反応に期待して公開を待つ。

■作品概要
『ルックバック』
2026年公開
原作:藤本タツキ「ルックバック」(集英社ジャンプコミックス刊)
監督・脚本・編集:是枝裕和
企画・プロデューサー:小出大樹   
配給:K2 Pictures

公式サイトURL: https://k2pic.com/film/lb/

©︎藤本タツキ/集英社 ©︎2026 K2Pictures・集英社

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