『HUNTER×HUNTER』第411話の扉絵に世界中のファンが驚愕! ツェリードニヒが抱える「少年の頭部」は誰のもの?

※本稿は、『HUNTER×HUNTER』のネタバレを含みます。同作を未読の方はご注意ください。(筆者)

 冨樫義博の大ヒットコミック『HUNTER×HUNTER』(集英社)。その最新刊となる第39巻が、7月3日に発売された(シリーズ累計1億部突破)。また、「週刊少年ジャンプ」31号では、およそ1年半ぶりとなる最新話(第411話)も掲載され、漫画ファンやアニメファンのあいだで、あらためて同作への関心が高まっている。

 ちなみにその、久しぶりの雑誌掲載となった第411話の扉絵は、カラーで描かれているのだが、その美しさと残酷さが入り混じった絵の内容に、衝撃を受けた読者も少なくないようだ(SNSなどを見ると、日本だけでなく、世界中の冨樫ファンがその絵に“反応”している様子を確認することができる)。

 描かれているのは、カキン王国の第4王子・ツェリードニヒ=ホイコーロの姿である。一見、柔らかな筆致と明るい配色による美しい肖像画に見えなくもないが、よく見ると、彼が両手で大事に抱えているのは、切断された少年の頭部である。

 本稿では、このいささかショッキングな絵を「解読」するとともに、ツェリードニヒという、物語を根底から揺るがしかねない特異なキャラクターについて考えてみたいと思う。

聖なるものと邪悪なるものの対比

 まず、問題の扉絵だが、「週刊少年ジャンプ」31号の入手が困難な方は、とりあえずネットで画像検索などをしていただきたい(いまなら、同誌のXの公式アカウントなどでも、くだんの画像を見ることができる)。

 描かれているのは、繰り返しになるが、カキン王国第4王子のツェリードニヒが、切断された少年の頭部を両手で抱えている姿だ。少年の両目はくり抜かれており、口は大きく開いて(あるいは開かれて)いる。

 一方、ツェリードニヒは、白い装束を身に纏(まと)い、不適な笑みを浮かべて、前方を見据えている。また、その背後では、金色(こんじき)の光輪が輝いている。

 これまでもツェリードニヒのモデルについては、イエス・キリストからフリードリヒ・ニーチェにいたるまで、読者のあいだでさまざまな名前が挙がっていたのだが、この絵を見る限りでは、やはり前者のイメージが少なからず投影されているのは間違いないだろう。

 しかし、偉大な“神の子”であるイエスとは異なり、ツェリードニヒは、王子とは名ばかりの、血に飢えたサイコキラーにして人体コレクターである。ではなぜ作者は、そんなおぞましいキャラクターにイエスのイメージを重ね合わせようとしているのか。

 たぶん、イエスのイメージが投影されているのは、その容姿(や一部の言動)のみだろう。つまり、“神の子”のような見た目をしていながら、その本質は、歪んだ選民思想を持ち、芸術家きどりで人体を解体・収集するサイコパス。そんなツェリードニヒの怪物性を逆説的に際立たせるために(あるいは、純粋な見た目と行為の罪悪の矛盾を視覚化するために)、作者は、あえてイエスを彷彿させる容姿を彼に与えたのだと思われる。

世界の救世主か、支配者か

 そして、その意図がより明確に表れているのが、今回(第411話)の扉絵なのだと私は思う。

 ちなみに、この絵はおそらく、「サルバトール・ムンディ」と呼ばれる、西洋の宗教画でよく見られる画題のひとつを踏襲している。「サルバトール・ムンディ」とは、「世界の救世主」を意味するラテン語であり、その画題で描かれる絵の定型は、イエスが右手を上げて祝福し、左手で十字架の乗った球体(水晶玉)を持っている、というものである。

 有名なのは「レオナルド・ダ・ヴィンチ作」とされている作品だが(こちらも興味のある向きは画像検索をされたい)、いずれも終末論的な雰囲気が漂っているのが特徴だ。

 なお、「サルバトール・ムンディ」の図像の中で、イエスが手にしている球体は、「地球」または「天球(宇宙)」を象徴しており、これはもちろん、「世界を救う者」としてのイエスの役割を表わしている。

 くだんの『HUNTER×HUNTER』(第411話)の扉絵がショッキングだったのは、その球体が、少年の頭部に置き換えられていたことだろう。さらにツェリードニヒは、片手ではなく、両手で大事そうに球体≒少年の頭部を抱いているのだ。

 果たしてこのことは何を意味しているのか。ひとつは、ツェリードニヒが、「世界の救世主」ならぬ、「世界の支配者」になろうとしているということだろう(じっさい、第387話では、カキン王国の王位を継承したのちに、「世界」を手にする野望を彼が抱いていることがうかがえる)。

 そしてもうひとつ。彼が手にしている少年の頭部が「誰」のもので、「なぜそこまで大事なのか」――その答えが出たとき、『HUNTER×HUNTER』の主要キャラのひとりであるクラピカの長い復讐のための旅は終わる、ということだ。

「少年」の正体は?

 まず、ツェリードニヒが手にしている少年が「誰」かという問題だが、これは十中八九、クラピカの幼なじみのパイロで間違いないだろう。

 クラピカは、かつて何者かによって虐殺された同胞たち(クルタ族)の敵討ちと(彼はクルタ族最後の生き残りである)、闇市場に流された被害者たちの「緋の眼」を取り戻すために、ハンターとなって長い旅を続けている。その目的を叶えるためにはマフィアの若頭になることも厭わず、すでに奪われた緋の眼の多くを取り戻してはいるのだが、あるとき、残りの眼を所有しているのがカキン王国の第4王子だという情報がもたらされる。その情報を信じたクラピカは、ツェリードニヒに接触するために、「王位継承戦」が行われるブラックホエール号に乗船。いまは、第14王子・ワブルの警護人のひとりとして、第4王子と接触する機会をうかがっているところである。

 いずれにしても、ツェリードニヒがすんなりクラピカに緋の眼を渡すはずはなく、ましてや、パイロの頭部を所有しているというのは尋常な話ではない。つまり、近い将来、両者が激突するのは避けられないだろう(読者の多くはクラピカの圧勝を望んでいることだろうが、ツェリードニヒとしても、防戦一方ではなく、むしろ、クラピカの緋の眼を欲しがり、向こうから攻撃を仕掛けてくる可能性すらある)。

 また、カキン王国の王子たちは、いずれも「壺中卵の儀」を通じて、「守護霊獣」なる念獣を生み出しているのだが、ツェリードニヒの守護霊獣の口の中には、パイロに似た少年の頭部が潜んでいる。守護霊獣とは、「取り憑いた者の人となりに影響を与えた形態・能力に変貌する」ものとされており、このことからも、パイロの頭部がツェリードニヒにとって、かなり重要な意味を持っているということがうかがえよう(ただし、なぜそれほど重要なものなのかは、いまのところは明かされていない)。

幻影旅団の立ち位置が、今後の流れを大きく変える?

 最後に、話は少し逸れるが、クラピカは、クルタ族の虐殺と緋の眼の闇市場への流出を行った犯人は、クロロ=ルシルフル率いる「幻影旅団」だと考えている。

 だが、もしかしたら、(旅団がなんらかの形でクルタ族虐殺に関与しているのは間違いないにしても)その黒幕は、ツェリードニヒかもしれないのだ。

 一方、かつて幻影旅団が結成されることになった最大のきっかけとは、仲間の少女のひとりが理不尽な快楽殺人の犠牲になったことであった(犯人グループは少女の死体とメッセージを現場に残し逃走)。実はいま、その“事件”にもツェリードニヒが関わっていた可能性が示唆され始めている。

 だとしたら、クラピカとクロロの共通の敵は、ツェリードニヒということになるのだ。むろん、すでにクラピカは緋の眼の所在をめぐり、幻影旅団と何度か衝突しており、その点では、両者はある種の手打ちをする必要があるのだろうが(あるいは、その必要すらないのかもしれないが)、仮に、ツェリードニヒが全ての悪の根源だと判明するようなことになれば、『HUNTER×HUNTER』という物語は、ひとつの大きな山場を迎えることになるだろう。

 そう、全ての鍵を握っているのは、聖なる仮面を被った怪物なのだ。

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