読むだけで強気になれる? 『天才思考』が説く、イノベーターたちの成功の必殺技とは

5月7日のAmazonランキングで35位に食い込んでいたのが、山崎良兵の『天才思考 世界を変えるイノベーションを生む10の思考法』(日経BP)である。タイトルの通り、イーロン・マスクやスティーブ・ジョブス、ジェフ・ベゾスといったイノベーターの思考法を、10種類に分けて解説した本である。
イノベーターを突き動かす10の行動原理
著者の山崎氏は、もともと日経BPの記者として活動してきた人物。イーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツ、ジェンスン・フアン(エヌベディアCEO)、マーク・ベニオフ(セールスフォース創業者)、モリス・チャン(TSMC創業者)、アンドリュー・グローブ(インテル元CEO)といった名だたるテック・エリートや実業家を取材した経験を持ち、数々の特集記事を執筆してきたという。いわば、イノベーター取材のプロである。
こういったイノベーターには良くも悪くもクセの強い人物が多く、またその発想は常識の枠に収まらないユニークなものであると、本書の冒頭で山崎氏は書く。そんな彼らに共通する思考や行動原理はどのようなものなのか。10の類型に分類して解説した書籍が『天才思考』というわけだ。執筆にあたっては過去の取材経験を参照しただけではなく、100冊以上の関連書籍・論文やイノベーターの自伝・伝記といった本や記事に目を通し、イノベーターに共通する思考方法をまとめたという。
その10種が、好きなことを追求する「情熱思考」、大量に取り入れた知識の幅を活かす「アナロジー(類推)思考」、あらゆる常識を疑って根本的原理を見つける「第一原理思考」、世間の常識や反対に立ち向かう「反逆思考」、過度な楽観に陥らずリスクを早期に発見する「パラノイア思考」、物語の力で組織を動員する「物語思考」、自らの欠点や苦手なことを補うための「チーム思考」、現時点で存在しない新たなイノベーションを考えるための「SF思考」、短期的な浮き沈みより長期的成功を優先する「長期思考」、テクノロジーに人の心を震わせるアートの要素を持ち込む「アート思考」である。本書は、これら10種の思考方法について、各章に分けて実例を挙げつつ解説。気になったところから読めばいい作りになっているので、部分的につまみ食いする形でもそれぞれの考え方が理解できるようになっている。ひとつづつ必殺技のようにネーミングして、内容が整理されているのが親切だ。
読むだけで「デキる人間」になれる? 前向きなパワーが宿る読後感

なんというか、一読するとなんだか仕事ができる人間になったような気持ちになれる本ではある。それぞれの思考方法はどれも内容が異なるものの、さすがにビジネスで成功している人間の事例や考えをまとめているだけあって総じて前進志向が強い。イノベーター諸氏がいかに情熱的に仕事に取り組み、インプットを欠かさず、前提を疑って社会のルールを飛び越え、革新的な製品で市場を席巻したかがつぶさに書かれている。個々の事例のスケールがかなり異なるのも特徴で、例えばパラノイア思考について書かれた章では「少年時代にひどいいじめにあった」というイーロン・マスクの例と「日中戦争から国共内戦までの動乱に巻き込まれつつ台湾で起業した」というTSMC創始者モリス・チャンの事例がどちらも「彼らはハードな体験を経て、成功につながる悲観主義を身につけた」という結論に紐づけられている。チャンの事例の方が圧倒的に大規模だが、本書は「どちらにも共通点がありますよ」という観点で書かれているのだ。
10種類の思考法は確かに理にかなっており、確かにこれらの思考法に強い行動力が伴えば、いろいろな仕事がうまくいくかもしれないなあ……と思わせるものがある。ビジネス書としての色合いも強い本なので、つまみ食い的な読み方で内容を理解して自分の仕事に取り入れるのは、本書の使い道のひとつとして納得できる。
鼓舞されるか、振り回されるかーーイノベーターたちの光と闇
ちょっと気になるのは、本書で取り上げられている人々はイノベーターであると同時に歴史に残る規模の富豪たちであり、その寡占的な商売の手法やビジネスがもたらす環境への被害、世界レベルでの富の独占などがいろいろと批判も受けているにも関わらず、そのあたりに関してはほぼ触れられていない点だ。なんせ本書の内容はイノベーターの思考法に寄っているので、「創造と破壊はセットであり、破壊して前進することに未来がある」という観点で貫かれている。マスクやベゾスは常人とは異なる10種類の思考法で創造的破壊を成し遂げ、イノベーションをもたらし、巨万の富を得た。その思考法を取り入れたい人に向けて書かれた本が、『天才思考』であって、そんな批判まで目配せしてたら本自体が成り立たないよね……というのは、わからないでもないのだが。
確かに古く非合理的な慣習や、技術の正当な進化発達にとって障害になるものは、破壊されても仕方ないだろう。だが悲しいかな、この本を読んでいる自分は別に天才起業家ではないことをすでに知っている。どっちかというとマスクやベゾスの商売に振り回される側だし、年齢的にも「頭が硬くなった老人サイド」としてイノベーターたちに破壊される方に近くなってきている。「パラノイアックでハイテンションでオタクな天才が、凡人の及びもつかないような発想と行動力で圧倒的成果を出す」みたいなストーリーを自分ごととして受け取ることが難しいのである。凡人にはもう少し組織的な協調や根回しも必要なんじゃないの……という感覚も個人的には残った。
なんせ内容はわかりやすく、読んだ後にはスーツ着てビジネス街を肩で風を切って歩きたくなっちゃうような本なのは間違いない。紹介されているイノベーターたちのエピソードも、有名なものから興味深いものまで色々で、隙間時間にちょっとづつ読むこともできる。なぜ今売れているのかよくわかるし、自分を鼓舞したいビジネスマンや、天才たちの思考パターンを知ってみたいという人にはうってつけだと思う。しかし、現代のイノベーターたちのダークサイドについては、本書の主題の外に置かれている。別視点で書かれた本も一緒に読むと、「現代においてイノベーターとはどのような存在なのか」がより深く理解できるのではないだろうか。
■書誌情報
『天才思考 世界を変えるイノベーションを生む10の思考法』
著者:山崎良兵
価格:2,640円
発売日:2026年3月20日
出版社:日経BP

























