町田啓太、なぜ半グレキャラが似合う男に? 『九条の大罪』壬生憲剛役の“紙一重の演技”を読む
役柄を上回る強靭な精神性
ここに一人の強靭な半グレキャラがいる。彼は電話1本で指示を受ければ、基本的に何でもやる。殺しだって厭わない。普段は自分が経営する自動車修理工場で寡黙に働いているが、野心家でもある彼は虎視眈々と黒社会でのしあがる機会を狙っている。そのためには手段を選ばず、修理作業のほんの延長のように手先を器用に動かし、オートマチックな殺しを処理できてしまう。
誰がどう聴いても下手なラップを、得意気に披露してばかりいるチンピラの後輩を呼び出し、ガールズバーの名刺を渡して油断させたところをズバッと仕留める、この男。「壬生さん」(あるいは「壬生くん」)と聞けば、誰もが恐れる。彼のことを買っている大物ヤクザ・京極清志が電話1本で指令を出した後輩殺しだが、壬生もまた京極に忠誠心を示すために、愛犬を手にかけた辛い過去があり、心の中では京極のことを深く憎んでいる。
真鍋昌平による漫画作品を原作とする、Netflixシリーズ作『九条の大罪』(2026)で、壬生憲剛役の町田啓太は一体、どんな気持ちで演じているのか、と思わず考え込んでしまう。いくら演技とはいえ、もし仮に町田自身が愛犬家だとしたら、演じるのも辛くなるのではないか…。俳優という職業は過酷だ。オファーを受け、台本を読み、出演を決めれば当たり前だが、どんな役柄でも演じなければならない。壬生役を演じる町田啓太からは、役柄を上回る強靭な精神性が垣間見える。
町田啓太の気品とエレガントな声色
壬生が抹殺する後輩はなかなかのファットマンだが、原作の壬生もボディビルダーばりにがたいがいい。金髪オールバック、上半身には首もとまで刺青がびっしり、両腕にもごりごりという威圧感あるビジュアル。実写化作品でこれを完全再現するとちょっと怖すぎるかなというところを、ソフトマッチョに絞り上げた肉体美と気品溢れる佇まいの町田が演じることで絶妙な存在感に仕上がっている。
横浜流星主演映画『きみの瞳が問いかけている』(2020)でも冷酷な半グレキャラを演じたが、本作の町田は愛犬を慈しんだ愛情と手段を選ばない野心的な殺気が同居するキャラクター性を表現するために、相反する感情を紙一重で演じている。本作第3話、ヤクザの若頭・京極(ムロツヨシ)から電話で後輩殺しの指令を受け、電話を切った壬生は深いため息をつくが、瞬時に殺し屋の顔になる。目元はどこか優しげなのに眉間はいつも殺気を帯び、この均衡を崩さないように殺しは淡々としている。
彼を殺しに誘導する、実写オリジナルの要素も見逃せない。工場の空間と空間を隔てる(黒沢清風の)ビニールカーテンが、恐怖と狂気の瞬間を何ともドライに演出するのだ。原作の初登場場面では「弁護士を紹介してやる」と言って仁王立ちする壬生の後ろ姿が、本作第1話では階段を下り、カーテンをくぐる動作に改変することで、あぁこの男、何かやるなと視聴者に一発で想像させる効果がある。それでいて、主人公・九条間人(柳楽優弥)に逐一電話する場面で「先生〜」と発するエレガントな声色には、思わずうっとり聞き惚れてしまう響きがあり、美と恐怖もまた紙一重な魅力がある。
Netflix作品の常連俳優として
競技ダンスの世界を題材にした、竹内涼真とのW主演作『10DANCE』は2025年12月18日にNetflixで配信され、デビュー15周年でもあった町田啓太のエレガンスでその年を締めくくるような作品だった。スタンダード世界2位の杉木信也(町田啓太)が、ラテン国内チャンピオンの鈴木信也(竹内涼真)とそれぞれの部門ダンスを教え合いながら、身の火照りを共有する過程が見る者を飽きさせないが、中でも井上佐藤による原作漫画の講談社版5巻で描かれる、むせ返るようなベッドシーンが目を見張る場面だ。
鈴木のことを拒絶していたはずの杉木が「僕は鈴木先生のすべてが欲しいんです」「叶うならあなたという存在すべてと一体になって」と畳み掛ける複雑な愛の言葉は、町田の情熱と洗練が台詞に宿り、誰もがとろけたことだろう。さらに杉木と鈴木がホテルのロビーで対峙する様子を切り返しで描く序盤の場面では、町田を捉えるワンショットだけがイマジナリーラインをあえて踏み越え、華やかな役柄と俳優自身の均整美が浮き彫りになった。
『10DANCE』からほとんど自動的にスライドするかのように、同じNetflix作品『九条の大罪』の壬生役の中にも持ち前のエレガンスが宿るかのようだ。山﨑賢人主演の大ヒットシリーズ「今際のアリス」(2020〜)に出演以来、『九条の大罪』を含めて5作もの出演作があり、Netflix作品の常連俳優として気炎を上げている。
■配信情報
Netflixシリーズ『九条の大罪』
Netflixにて世界独占配信中
出演:柳楽優弥、松村北斗、池田エライザ、町田啓太、音尾琢真、後藤剛範、吉村界人、水沢林太郎、田中俊介、黒崎煌代、石川瑠華、原田泰雅(ビスケットブラザーズ)、吉田日向、 川﨑皇輝、佐久本宝、和田光沙、水澤紳吾、福井晶一、氏家恵、六角慎司、諏訪珠理、奥野壮、うらじぬの、前原瑞樹、遊井亮子、長尾卓磨、田辺桃子、森田想、杢代和人、岩松了、渡辺真起子、菊池亜希子、長谷川忍(シソンヌ)、香椎由宇、光石研、仙道敦子、生田斗真、ムロツヨシ
原作:真鍋昌平『九条の大罪』(小学館『週刊ビッグコミックスピリッツ』連載中)
監督:土井裕泰(TBSテレビ)、山本剛義(TBSスパークル)、足立博
脚本:根本ノンジ
音楽:O.N.O
主題歌:羊文学「Dogs」(F.C.L.S. / Sony Music Labels)
プロデューサー:那須田淳(TBSテレビ)
エグゼクティブプロデューサー:髙橋信一(Netflix)、杉山香織(TBSテレビ)
制作協力:TBSスパークル
製作著作:TBSテレビ
配信:Netflix



















