【漫画】大学で出会ったのは地球外生命体? ノスタルジックSF『望郷の星』

【漫画】大学で出会ったのは地球外生命体?

 「僕は宇宙人だからね」。そう話すのは「大学一の変わり者」と称される天才宇宙研究者・スミ。SNSに投稿されている漫画『望郷の星』で描かれるのは、まるでSF作品の世界のようなことばかり話すスミと、スミの助手を務めることとなった主人公がともに過ごすひととき。

 自由奔放なスミに気苦労を感じる主人公の日常が描かれるなか、主人公がスミの研究に興味を抱く理由、そしてスミの過去、はたまた作品の世界の隠された真実が次々と明らかになっていくーー。本作の読後感は、星新一のショートショートを読み終えたあとに感じる余韻に近いかもしれない。そんな『望郷の星』を創作した背景や各シーンについて、作者・中埜縁さん(@NA_kano_en)に話を聞いた。(あんどうまこと)

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『望郷の星』(中埜縁)

ーー本作を創作したきっかけを教えてください。

中埜縁(以下、中埜):スマホの中に「地球みたいな感じで話が進んでいるけれど、実は地球じゃない場所の話」というメモがあったんです。そのメモを元にした、星新一のショートショートのような漫画が描けないかなと考えました。

ーー本作には「叙述トリック」的な仕掛けが含まれています。ストーリーはどのような順番で組み立てましたか?

中埜:最初は「変な女の子に振り回される主人公の話」として考え、女の子を「自称宇宙人」という設定にしました。「自称宇宙人」というのは王道の設定ですが「本当に宇宙人だった」という展開にすることで読者を裏切ろうと思い、なぜ宇宙人の彼女がこの星にいるのか、周りの環境はどうなっているのかと考えながらストーリーを広げていきました。
 
 実は当初、地球から見て宇宙人にあたる主人公の腕を6本にしようかとも思ったんです。でも漫画にすると一目で「舞台が地球じゃない」とバレてしまうので、この案は却下することにしました。

ーー本作の1ページ目、主人公が映るスミの視点から始まる1コマ目の表現が印象に残っています。

中埜:このシーンも当初、主人公たちの肌の色を緑色で表現しようと構想していた名残です。スミさんが付けているゴーグルには色調補正がかかっており、ゴーグル越しに見ると地球人に似た色の肌に見えるーー。そんな設定を考えていたのですが、取り入れる尺がなかったので没になりました。

ーー「自称宇宙人」のスミさんとともに、名前が描かれない主人公を描くうえで意識したことは?

中埜:読者が主人公に視点を重ねられるように、あえて「キャラ立ちしていない普通の人」にしました。作中で主人公の名前をあえて出さなかったことも、読者が主人公に自身を投影しやすくするためです。

 強烈なキャラだと思っていた「自称宇宙人」のスミさんが実は読者と同じ地球人で、共感していたはずの普通の主人公が実は異星人だった……という視点の逆転を狙いました。

ーー主人公の台詞「…だれもいないところに行きたいと思ってたはずなのに/気が付けば孤独が嫌になってきて」は、地球人であるわたしたちにとってもなじみ深いものかと感じました。宇宙人なのに人間っぽい、みたいな……。

中埜:ありがとうございます。漫画のプロットを作る際にチャットAIサービスからフィードバックをもらっていて、ときに「この場面、この台詞はいらないのでは」と助言をもらうことがあります。

 本作ではスミさんの話を聞いた主人公が「この星の遥か遠くに、スミさんの星があった/そこに誰かがいるとしたら/助かるなって、そう思います」と言うシーンなどは、AIからは「不要なシーンである」と意見をもらいました。ただそこが私が一番描きたかったところだったので、私はAIのフィードバックを受け入れず「AIは(私の描きたいところを)わかってないな」と思いながらこのシーンを描きました。

 話のわかりやすさでは不要なところだったのかもしれませんが、「後悔」や「諦め」といったマイナスな感情との向き合い方について、終盤の2人の台詞や会話は気に入っています。

ーー主人公と友人たちの会話には「就職組」という言葉が出たりなど、日本の大学のような機関の存在がうかがえます。

中埜:私は普通の会社員をしていますが、大学時代は修士課程まで進みました。ただ、どちらかと言えば「人生をかけて研究の道へ進みたい」というタイプではありませんでした。

 研究の世界は傍から見たらかっこよく、スマートなイメージがあるかもしれません。しかし実際に研究の道へ進む同級生たちを見て、彼らはすごく泥臭いと感じました。研究者になったからといって儲かるわけでもなく、雇用も非常に不安定。ただ「研究が好きだから」「憧れを止められなかったから」といった人たちが研究の世界にはたくさんいる。

 研究と真摯に向き合っている人たちを目にしてきたからこそ、打算やコスパだけでは測れない、人間の側面を本作で描きたいと思いました。

ーー今後の目標を教えてください。

中埜:これからも自分が描きたいことがなくなるまでは、漫画制作を細々と楽しくやっていけたらいいなと思っています。

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