姫乃たま、母として伝えたい「居場所」の作り方「私みたいな人もいるから大丈夫だよ」


姫乃たまの新刊エッセイ『なぜかどこかに帰りたい』(太郎次郎社エディタス)は、自身の経験をもとに「自分の居場所」について、優しくもユーモラスな筆致で綴られたエッセイ集だ。
2019年に地下アイドルを卒業し、2022年には漫画家・イラストレーターの寺田克也氏と結婚、2025年には待望の第一子を授かった姫乃たま。同書には、そんな彼女がついに見つけた「居場所」について、地下アイドル時代の経験や家族の思い出、ダイエットや不妊治療が身体へ与える影響、そして我が子への想いとともに綴られている。
30代となり、母として新たな人生を歩み始めた姫乃たまに、本書に込めた想いを聞いた。
学校の図書室で偶然手に取ってもらえたら

姫乃たま(以下、姫乃):干支がギリギリ一周してないくらいの時間は経ってますね(笑)。
ーー前作の『永遠なるものたち』(2022年、晶文社)は、「失われ、手の届かないがゆえに永遠となったものたち」をテーマにしたすごく繊細なエッセイ集でしたが、今回の『なぜかどこかに帰りたい』は文体こそ柔らかいけれど、どっしりとした力強さもあって、姫乃さんのマインドが大きく変わったことを感じました。
姫乃:そうですね。以前とはずいぶん心持ちも変わったと思います。今回の本は、編集者の方からの「居場所について書きませんか」という提案から始まったもので、その編集者には小学生のお子さんが二人いらっしゃるんですけど、「最終的には自分の子どもに読んでほしい本を作りたい」っていうお話をされていて。それで中高生でも読みやすい文章にしようと思ったんですけれど、今のティーンの人たちが何を考えているのかもよくわからないから、子どもの頃の自分に話しかけるようなイメージで書いていきました。私が図書室によく行く子だったので、学校の図書室で偶然手に取ってもらえたら嬉しいな、と。
ーーこの本は少しずつ視点が変わっていくところも面白くて、姫乃さんが自分の子どもを持つ可能性が現実になっていく中で、想定している読者像も変わっていく印象がありました。
姫乃:子どもが欲しいなと思っていたタイミングで、不妊治療と並行してずっと書いていました。だから、だんだんと自分の娘に対して書くイメージも重なっていったと思います。例えばダイエットの話とか、「痩せることと愛されることは関係ない」っていう章は、自分の子どもがたぶん娘だってわかったタイミングで書いていて。そのとき、すごく複雑な気持ちになったんですよね。嬉しさもあるけど、自分が女として生きてきて、10代・20代が結構しんどかったから、「この子をどう守ったらいいんだろう」っていう気持ちもあって。未来の娘にも伝えたいし、同時に、若かった頃の自分を守ってあげたいっていう感覚がすごく強くなりました。
ーー女の子が生まれることに対して、複雑な気持ちがあった。
姫乃:私はそれまで子どもの性別はあまり気にしていなかったんですけれど、性別がわかった瞬間に一気に感情が揺さぶられました。エコーの部屋で「女の子ですね」って言われたときに、ちょっと泣いちゃって。嬉しいけど、すごく複雑で。自分の娘が私と同じ人生を歩むわけではないってわかっているんですけれど、これまでの人生が一気に押し寄せてくる感じがあって。それと同時に、30代になって年下の子たちを「みんなかわいいな」「守りたいな」って思うようにもなってきました。
ーーダイエットや不妊治療の章は、特に反響が大きかったそうですね。
姫乃:ダイエットの章は、アイドルの子とか、顔出ししてる女性からの感想がすごく多かったです。もともと私はシンデレラ体重だったんですよ。152センチで42キロ切るくらい。でも地下アイドルの時から10キロくらいは普通に増減していて、卒業してから20キロくらい太りました。当時は本当に「太ったら社会的に死ぬ」って強迫観念的に思っていたんです。でも実際に太っても、別に友達がいなくなるわけでもないし、離婚されるわけでもない。むしろ元気になりましたね。痩せてた時は胃腸も弱かったし、メンタルも不安定だったので。脂肪って、ハートを守ってくれるんですよ(笑)。
ーーダイエットの価値観自体についても、考えさせられる内容でした。
姫乃:日本って、女性の体重がすごく軽いじゃないですか。先進国の中でもかなり軽くて、健康的に問題があるっていう話もあります。だからこそ、この本では「無理に痩せる必要はないんだよ」って伝えたかった。日本はどうしても「世間」に合わせようとする感じが強くて、「世間」なんて誰のことなのか分からないのに、そこに寄せていってしまう。それで苦しくなるっていうのは、すごくあると思います。
ーー不妊治療について書いた「生まれてきてくれてありがとう」という章は、デリケートな内容ですし、書くのが大変だったのではと思いました。
姫乃:実は一番書きやすかった章でした。今までは文章を書くことで「誰かに共感してほしい」とはあまり思わなかったんですが、今回ははっきり「共感してほしい」と思っていたので、それが書きやすかった理由だと思います。もちろん「同じ気持ちの人に出会いたい」という気持ちは以前からありましたが、自分の文章の表現を守るために内容が閉じていたところがあって。でも今回は「誰か、私と同じ気持ちの人いますか?」って読者の方に呼びかけるようなイメージ。「言いづらいけど書いた」というよりは、「誰かいませんかー!」という気持ちで書いてます。意外と中年男性からの反響が大きくて、たくさん感想をいただきました。
ーーこういう繊細な話は、本という媒体だからこそ届く部分もありそうですね。
姫乃:そうなんですよね。友達同士だと話しづらいこともあるし、同じ状況でもどちらかだけがうまくいったりすると余計に難しくなるし。だから、本を通じて少し距離のある人の言葉に触れるのって、すごくいいと思います。
スタバでせんべい食べちゃうようなババアになりたい

姫乃:やっぱり結婚をしたことが大きかったと思います。実家は「いずれ出なきゃいけない場所」という感覚が強かったんですけど、結婚して初めて「家族ができた」って思えて。それで変わったのかもしれないです。本当に夫のおかげですね。
ーー地下アイドル時代の経験も、姫乃さんの「居場所」についての考え方に繋がっていると思いました。
姫乃:地下アイドルの仕事って、基本的にはコミュニティを作ることなんですよね。実際、今回のイラストをお願いした、いいあいさんの展示会のオープニングパーティーには、私のファンの方がたくさん来てくださって。それを見て、いいあいさんから「本当に居場所を作る仕事をしてたんだね」って言われて、ああそうだなって思いました。
ーーコミュニティを維持するのも決して簡単ではないですよね。
姫乃:そうですね。地下アイドルのときは「ガチ恋」のファンとの関係性とか、すごく難しくて。どう扱えばいいのか分からなくて苦戦してました。ガチ恋の人がいると、みんなで仲良くするのが難しくなって、コミュニティがうまく回らなくなったりもするし。でも、その経験から学んだことは大きかったと思います。
ーーこれまでの経験、特に苦い体験も含めてすべてが「肥やし」になっている。
姫乃:本当にそう思いますね。嫌だったことって絶対に無駄にしたくないんですよ。辛いことがたくさんあったからこそ、「辛かったな」で終わらせたくないっていう気持ちはずっとあって。でも最近は、ちょっと変わってきたところもあって、「ああ、嫌だったな、おしまい」って、自分の中ですぱっと区切ることも大事だなって思えるようになりました。たぶん、精神的にタフになったんだと思います。
それに、10代や20代の頃と比べると、嫌な思いをさせられる機会が圧倒的に減ってる気がします。搾取っていうほどじゃないにしても、若い女の子だからこそ起こる理不尽なことが減ってきたなって。私、16歳から地下アイドルをやっていて、エロ本の編集部でも働いていたので、「若さが価値」みたいな世界にずっといたんですよ。だから18歳を過ぎたら人生終わりだと思ってた。でも全然そんなことなくて、むしろ30代になってからの方が、ずっと人生が楽しい。本にも書いたんですけど、昔から40代になるのがすごく楽しみで、今からワクワクしています。
ーー「私はババアになりたい」っていう章もありますね。
姫乃:ババアになりたいですね! 具体的なイメージもあって、スタバで持ち込みのせんべい食べちゃうようなババアになりたい(笑)。周りを気にせず、自分のペースで生きてる感じ。私は細かいことが気になりすぎるタイプなので、そういう図々しさを身につけたいです。だんだんと近づいている気がします。
人との繋がりで救われることもある

姫乃:ありがとうございます。今、生後半年で離乳食が始まったところなんですけど、これがまた可愛くて。最初は大変だったんですよ。私は双極性障害があるので、「子どもを育てて大丈夫なのか」っていう不安も大きくて。産後うつもかなりひどかったです。今まで体感したうつの中で一番きつかったかもしれない。でも、乗り越えました。何より子どもは面白いし、「産んでよかったな」って思っています。
ーーかなり大変だったんですね。
姫乃:子どもが可愛いっていう気持ちと、すごく悲しい気持ちが同時に来るんですよ。躁とうつが一緒にやって来るみたいな感覚で。だけど、精神科医と夫がすごく支えてくれたので、立ち直れました。子育ても「協力してもらっている」どころか、完全に夫が主体で子育てしてくれてる感じ。むしろ私は手伝ってる側かもしれない(笑)。いま双極性障害などで不安がある方には、私みたいな人もいるから大丈夫だよって伝えたいですね。
ーー今はもう元気いっぱいな感じですね。
姫乃:なんか、すごく明るくなったと思います。躁状態じゃないですよ(笑)。性格もそうだし、目も。昔の写真を見ると、結構疲れて目が閉じてるんですよ。でも今はちゃんと開いてるというか。あと、友達もすごい増えましたね。大人になってからのほうが、むしろ増えた感じがします。
最近は、とりあえず人を信じるようにもなりました。昔はすごく用心深くて、この人いい人かな、悪い人かなって先に考えちゃってたんですけど、考えても無駄だなって思うようになって。だって、いい人だと思ってたのに違ったらショックだし、逆に疑ってた人がいい人だったら申し訳ないし、どっちも嫌じゃないですか。
だったら最初から信じてみようって。簡単に信じるんですけど、もし違ったら「あ、違ったか」で引っ込めやすいというか。それでいいかなって思ってます。そういう付き合い方をしてたら、むしろ変な人にあんまり会わなくなった気もしていて。
ーー人との付き合い方も変わったと。
姫乃:10代とか20代の頃って、やっぱり周りの大人に舐められる感じもあるし、警戒心が強くなるんですよね。でも30代になって、人と会うときにあんまり色々考えなくなりました。「いい人なんだろうな」って、ぼんやり思うくらいで。結局、人といると傷つくこともあるんですけど、最終的には人との繋がりで救われることもあるんですよね。
ーー本書の中では「人と関わること」と同時に「ひとりの時間の大切さ」も書いてますね。
姫乃:そうですね。この本を書いているときに、誰とも関わりたくないっていう人にも話を聞いたんですけど、その人が「完全に人と関わらずに生きるのは難しい」って言っていて。たとえば椅子に座っても、その椅子は誰かが作ったものだし、完全に孤立するってできないんですよね。それを聞いて、ああ確かにと思って。だから、ひとりでいる時間も大事だし、人と関わるのもそれはそれでいいよねって、両方のバランスの中で居場所ができていくんだと思いました。誰かと一緒にいることだけが居場所じゃないよっていう。
ーー最終的に「帰りたい場所」とはどういうものだと思いますか。
姫乃:明確にここ、っていう場所があるわけじゃない気がしていて。人との関係だったり、ひとりでいる時間だったり、その両方の中に少しずつあるものなんじゃないかなと思います。でもどんな時にどんな場所にいても、自分自身が自分の居場所になれたら最高ですよね。どうしたらそうなれるのか、またそのことをつねに忘れないために書いた本です。

■書誌情報
『なぜかどこかに帰りたい』
著者:姫乃たま
価格:1,870円
発売日:2026年2月17日
出版社:太郎次郎社エディタス





















